短編集

□お誕生日によせて
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今、薩摩と長州は龍馬さんの仲介で同盟を結ぼうとしているらしい。

詳しいことは大久保さんが話してくれないけど
私の記憶が正しければ薩長同盟は史実として残っていたはず。

今日はその薩長同盟のための会合の日取りを決めるために
龍馬さんからの手紙を以蔵が大久保さんに届けにくるらしい。

返事を書く間、時間があるから以蔵に会えるようにしてくれるって
大久保さんが言っていた。

私は以蔵に渡したいものがあって、縁側で準備をしていたんだけど
思いのほか時間がかかってまだ出来あがっていなかった。

「かず」

以蔵が半次郎さんに案内されて奥座敷の庭まで来てくれた。

私は手を止めずに返事をする。

「ちょっと待っててもうすぐだから」

「何をしてるんだ?」

以蔵が私の手元を見て聞いて来たので
私は手にしていた手拭いを見せて

「刺繍をしているんだよ」

と答えた

刺繍の柄は赤い風車と赤い毬
この月誕生日を迎えるまりやに
誕生日のプレゼントと日ごろの感謝をこめて
この前からこつこつと刺繍を続けていた。

お料理も洗濯も・・・掃除もいまひとつの私だけど
裁縫は得意・・・って言うかまだましな方。
薩摩藩邸でも雑巾くらいならいくつも作ったし。

だけどやっぱり未来のように便利な道具があるわけじゃないから
思ったより時間がかかったし思うような柄にならなかった。

以蔵を待たせて最後の仕上げをする。

以蔵は庭の木々を見たり素振りをするようなしぐさをしながら
私が声を掛けるのを待ってくれていた。
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