短いお話

□戻っておいで
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クロノメイで同級生だった名無しさん。
同じ輪を目指す僕らはいつの間にか2人でいることが多くなり、気が付けば恋人という関係になっていた。
その関係も僕が先に壱號艇に入団したことにより自然消滅。
彼女のその後は知らない。
しばらく引きずっていた彼女のことも、最近では記憶の奥底にしまい込んでいた。
今日までは…

「喰ー、キイチー、新しい仲間を紹介するから集まってくれ」
「新しい仲間ぁ?」
「新人ってことですか、朔さん」
「おぅ、じゃあ入って自己紹介してくれ!」

朔さんの後ろから現れたのは見覚えがある女の子…あれ、もしかして…

「はじめまして、今日から壱號艇に配属されました名無しさんと申します。新人でご迷惑をかけることも多いと思いますので、色々とご指導よろしくお願いします。」

深々と頭を下げている彼女にキイチが飛びついた

「キイチですぅ!ムサい男ばかりだったから女の子が来てくれて嬉しいですぅ!でもヘマしたら許しませんからね?」
「はい、よろしくお願いします」

今…名無しさんって言った…?

「何ボーっとしちゃってるんですか?喰君も早く挨拶しろですぅ!キイチはこれから名無しさんさんをお部屋に案内しなきゃいけないんですから!」
「えっ、あぁごめん。喰です。これからよろしくね」
「よろしく…」

僕の顔を見ようともしない名無しさんを見て確信した。やっぱり彼女だ。

その様子を見ていた朔は空気を読まずに余計なことを言った。

「おいおい、名無しさんと喰はクロノメイで同級生だったんだろ?もっと感動の再会的なのねーの?」
「っ、キイチさん!お部屋に案内していただいてもいいですか?」
「喰君とお知り合いだったんですねぇ、お部屋行く前にお話とか…」
「大丈夫です!行きましょう」
「…それではご案内しますね」

キイッちゃんが不思議そうな顔で僕を見ていたけど、僕だって今の状況を把握してないんだ。

「あれ、俺なんかマズいこと言った…?」
「ちょっと行ってきます…」

名無しさんの部屋…どこだろう…と思ったら部屋の前にキイッちゃんが立っていたので、部屋を探す手間が省けた。

「名無しさんと話してくるからそこ、どいてくれる?」
「まったく…久しぶりの再会で女性を泣かすなんてダメダメですぅ!」

キイッちゃんが怒るのも当たり前だな

「名無しさん、入るよ」

真っ暗な部屋の中、1人には大きすぎるソファーの端で膝を抱えていた名無しさんを見て胸がズキっと痛みを感じた気がした

「名無しさん、」

隣に座り頭を撫でると名無しさんはボソボソと話し始めた

「私は…ずっと喰のこと忘れたことなかったのにっ…喰に追いつきたくて、喰の隣にいたくて、頑張ったのに…」
「…うん、」
「喰は私のことなんて忘れてたでしょ…」
「忘れてなんかない…もう二度と会えないなら忘れた方が楽だと思って忘れようとしてたんだ」

「喰は私と二度と会えないって決めつけてたんだ?」
「ごめん、なんて何回謝ってもキリがないね。名無しさん、顔上げて?」

ゆっくりと顔を上げた名無しさんに触れるだけのキスをすると、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている

「何その顔、そんなに驚かなくてもいいんじゃない?これからは死ぬまでずっと一緒だね。もう離さないから」

戻っておいで、僕の腕の中へ

抱き締めれば恥ずかしがりながら、ゆるゆると僕の背中に腕を回してくるとこは変わってないな

「綺麗になったね、名無しさん」

もう一度キスをすると、ここにきて初めての笑顔を見せてくれた


 

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