短いお話

□走り去った僕の白
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火不火の黒白…
次の任務で捕獲しなければならない重要な人物

私は昔の記憶を引っ張り出して考えた

(黒白…どこかで…)



輪に入る前のこと、街で見かけた可愛い女の子を連れた若い男性
風で飛んできた女の子の帽子を拾ってあげたときに、取りに来たその人に一目惚れ…したのだ

その後も同じ場所に居れば会えるのではないかと、隙さえあればそこにあるベンチに座ってあの人がくるのを待った

ある日、あの人が1人で来て声をかけてくれた

「また会いましたね」
「あっ、はい…!」
「いつもここにいらっしゃいますが、何をしてらっしゃるのですか?」

クスクス笑いながら聞かれて恥ずかしくなる

(きっと全部お見通しなんだろうな…)

「貴女のお名前は?」
「えっ、あっ名無しさんです!貴方は…?」
「黒白、と申します」
「うろ…さん」
「それでは、今日は失礼します。明日またこの時間にここで会いましょう」

それから毎日他愛もない話をして過ごした
私がクロノメイに入る話をするまでは…

「私、もう少ししたらクロノメイに入学することになってるの…そしたら、もう…会えなくなるね」
「そうですか…」

今思えば、その時の黒白は複雑そうな顔をしていたような気がする


「もうすぐ黒白に会えなくなるのかと思うと寂しいな…」
「私もです。名無しさん…」
「あっ、もうこんな時間。また明日ね、っ!」

俯いていた顔を上げれば軽く触れただけの唇、初めての、感触

「さようなら、名無しさん」

そう言った黒白は次の日から姿を現すことはなかった…





いよいよ任務の日、イヴァとツクモと共に屋敷の中に潜入し黒白を探す

「これは輪の女神様方…」
「…!」

(やっぱりあの黒白だっ!)

黒白もこちらに気付いたようで言葉にしなくても悲しげな表情を浮かべていた

「…くっ、イヴァ、ツクモ!ごめん!ここは任せる!」

(私にあの人と戦うことは出来ない…ごめん、みんな…)

とにかくその場から離れたくて夢中で走った

「名無しさん!?どうしたの!」
「ツクモ、今は名無しさんより黒白よ!」

走り去った僕の白

(名無しさんがクロノメイに入ると聞いたときから、いつかはこうなることがわかっていた…わかっていたはずなのに…)

((こんなにも胸が苦しい))


 

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