短いお話

□淡い恋が芽吹いた日
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その日は平門の用事でとある街に行く予定で、他の闘員は自由行動していい事になっていた

「じゃあ、僕は別行動するから」

ハシャぐ與儀に一言告げて振り返ることなく行ってしまった喰の背中を見つめていた名無しさんは、私も!と喰を追いかけるように走り出した

「じ、じきくん…はぁ、追いついたっ!」
「名無しさんちゃん?どうしたの、そんなに息切らせて」
「ちょっと走ったから…あの、迷惑じゃなければ私も喰君と一緒に行きたいなぁ、なんて」
「ここまで来てくれたのに断れるわけないでしょ。いいけど、君にはつまらないかもよ?」
「喰君と一緒にいるだけで楽しいから大丈夫!」

恐らく名無しさんは無意識に発したであろう言葉に喰は心の中で溜め息をついた

(天然ってこの子の事を言うんだろうな)

「どうしたの?やっぱり迷惑だった…?」

不安そうに喰を見る名無しさん
喰より背の低い名無しさんは自然と上目遣いになるため、喰は二度目の溜め息をつく

「そんなことないよ、行こうか」
「うん!」

名無しさんは嬉しそうに喰の隣に並んで歩き出した

「ここ、入るから」
「お花屋さん?」
「まぁそんなとこ。植物は生き物だからね。実際に見て選びたいんだ」
「へぇー。あっ、あのお花可愛い!」

「僕はこっち見てるから名無しさんちゃんも好きなの見てきなよ」
「うん!あっちのお花見てくるね!」

子供のようにハシャぐ名無しさんを見て自然と笑みがこぼれた喰は、しばらく名無しさんの様子を見ていた

(この店、品揃えいいなー。女子の制服もいいし…あれ名無しさんちゃんどこ行った?)

自分の買い物に夢中になっていたため、名無しさんの姿を見失った喰は周りを見渡す

「だーれだ?」

後ろから目隠しされ、聞き覚えのある声が聞こえた

「名無しさんちゃん…」

答えればすぐに外された手を少し名残惜しく感じながら振り向けばニヤリと笑う名無しさんがいた

「喰君、お買い物に夢中で気付かなかったでしょ?」
「ごめんね、つまんなかったでしょ」
「全然!喰君が楽しそうだったから私も楽しかったよ」
「…そろそろ戻ろうか」
「うん、與儀達も楽しかったかな?」
「さぁ?どうだろうね」

淡い恋が芽吹いた日

「喰君ってさ、好きな子とかいるの…?」
「いるかもね。名無しさんちゃんは?與儀君とか?」
「えっ違うよ!喰君はツクモちゃん?」
「君が教えてくれるまで内緒」
「えー…」

(私が好きなのは喰君だよ、なんて恥ずかしくて言えない)
(僕が好きなのは君だよ、なんてまだ教えてあげない)



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