日向坂 (短編)

□DRIPPING
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高本「そろそろ戻らなきゃ…後で体温も計りに来るから大人しくしといてよ?」

『はーい』

高本「菜緒ちゃんもまたね」

菜緒「あ…はい」






結局

高本さんがいなくなるまで空気は変わらず

私はひっそりそこにおるだけって感じで…





『なぁ、高本さんめっちゃ可愛くない?』





おまけにコイツはめっちゃ無神経やし

菜緒の気持ちに気づいてないからある意味当然なんかもしれんけど

二人になった瞬間こんなことも平気で言ってくる





「…そやな」

『あんな綺麗な人に会えるとは…まぁ、入院は最悪なんだけどさー』

「…」

『…菜緒?』





確かに綺麗な人やし

どうしようもないのは分かってるけど

名前が女の人の話してると胸が苦しくなる



モヤモヤを抱えたまま

嫉妬したまま

何も言えんままで我慢するしかなくて



この近くて遠い距離が

関係が崩れるのが一番怖くて





『…大丈夫かよ』

「えっ…?」

『本当に最近ボーっとし過ぎだよな…ちょっと心配になるわ』

「っ…入院してるあんたに言われたくないねんけど//」





なのにこんな風に

真面目にじっと見つめてくるから



思わず言いそうになる

本音が溢れそうになる



私はあんたのことが

名前のことが好きなんやって…







コンコン







『ん?誰か来た?』






頭の中が名前でいっぱいになり過ぎてたのを知らせるみたいに

扉の向こうからノックの音がして





『どうぞー』





また引っ込み思案な自分に元通り





「失礼しまーす」





しかも病室に入って来たのは






『愛萌ちゃん!来てくれたの?』

愛萌「だって入院したって聞いたから心配で…おっ、菜緒も来てたんだ?」

「…うん」






同じように名前を想ってる存在

隠し事をしてる存在

だけど大切な友達で







愛萌「世話の焼ける幼なじみ持つと大変だね(笑)」

「…フルーツ持って行けって、お母さんに頼まれて」

愛萌「そうなんだ、名前は…思ったより元気そうだね?」

『うん、問題なかったらあと2~3日で退院できるよ』

愛萌「そっか…ちょっと安心した//」

「…」





声のトーンと表情が

照れてるって分かりやすく伝えてる



それでも鈍感な名前には

愛萌の想いも菜緒の苦しみも

全然分かってないのは確実やし





「…そろそろ帰るわ」

『えっ?まだ来てそんなに経ってないじゃん』

「…本屋さんに、予約してた図鑑とか小説とか…取りに行かなあかんし」

『ふーん』

愛萌「そっか…気を付けてね?」





本心で心配してくれてる友達に

嘘をついて隠し事をしたままの自分には

ここにおる資格もないから





「うん…じゃあね、愛萌」

愛萌「ばいばい」




















『…えっ、何で一人称はシカトなの?』

愛萌「どうせまた怒らせるようなことでもしたんでしょ?」

『違うって!今回は本当に心当たりないから!』

「…」





普段のノリなら言葉を返す場面やったけど

さすがにその元気もなくて



今はこの場所に

消毒液の匂いに包まれたような感覚が痛くて

とにかく二人から離れたいって気持ちしかなかった…










『…やっぱ変だよなぁ』

愛萌「ん?」

『菜緒、最近なんか元気なくない?』

愛萌「…」
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