乃木坂 (短編)

□confusion
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「そっか…じゃあ今日は会えんと?」

『うん、ごめんな?約束してたのに』

「で、でもそれも仕事やし…人付き合いは大事やし……気にせんでよかよ?」

『でもお前寂しがり屋だし…本当に大丈夫か?』

「そっ、そんなこと……ぜーんぜん一人でも平気やし…」

『焦ってんのバレバレだぞ、祐希』









電話の相手は最近できた一人称の彼女で

会社の同期でもある与田祐希





入社当時から同期の中でも一際ドジで天然な彼女は

色んな意味で人を惹き付けていたけど…





まさか一人称自身

恋愛対象として惹かれるとは思ってもなかった





何故かいつも目が離せなくて…





気づいたら好きになってた





けどそれは向こうも一緒だったみたいで…






つい先日

付き合うことになったんだけど










『とにかくゴメンな、細かいことは明日また話すから』

「分かった…飲み過ぎんようにね?」

『ん…じゃ、おやすみ…』


















『はぁ…』









電話を切って溜め息を深くついた後

ケータイのディスプレイを見ると既に日付が変わっていたことに気付く



さっきまで恋人のことでいっぱいだった頭の中も

明日の仕事を心配するほうへ切り替わった




そして、もうひとつ…











「それでさぁ、課長まで白石はよく頑張ったー!とか言ってくるワケよ…」

『それはキツいっすね』

「だしょ!?なのにさぁ…今日になったら前みたいにお茶頼むーとか、ふざけてんの!?」

『いや、それ一人称に言われても…』









つーかその話



もう20回目ですけど










都会の片隅に佇む居酒屋

隣で完全に悪酔いしてるのは

一人称や祐希が働いてる会社でお世話になってる白石麻衣さんって先輩で




原因は昨日ウチの会社で行われたプレゼン大会





最終まで残ってたんだけど惜しくも落選

さらに同じ課の後輩で堀さんって人が選ばれたショックでこんな状態に





今朝見た時から精神的にけっこうキテるって分かってはいたんだけど


なかなか慰められる言葉が見つからなくて…






けどそんな中

白石さんは何事もなかったかのようにいつも通り明るく振る舞ってて



仕事中は笑顔で乗り切ってたんだけど







店に入るやいなやお酒をグイグイ飲みだして








気付けば、ほぼ一人飲み状態





さっきまで先輩と仲良しな同僚メンバーも付き合ってくれてたんだけど

さすがに悪酔いしたテンションがめんどくさくなったのか




明日も仕事だから…





ってこの人を一人称に押し付けて苦笑いで帰って行った








明日も仕事だから…って





それ一人称も一緒なんですけど






白石さんは入社した時の教育係だったこともあって

一番お世話になってる人だとは思ってるけど…






正直

今は早く帰りたい








その一心で上手い言い訳を考えてんだけど







「すいませーん、これと同じのもう一杯…」






ってアンタまだ飲む気か!?






『白石さん…そろそろやめときましょ?』







明日も仕事だし

一人称も早く帰りたいし





白石さんの目…





なんか血走ってるし








けれどそんな一人称の思いは





今の彼女には通用しなくて




グラスを下げようとした腕を強く振り払われた










「もういーの!きっと…アタシじゃダメなんだよぉ…(泣)」

『そんなことないですって!次も絶対チャンスありますから…』









そしてここにきて






ついに泣いちゃった











泣きたいのはこっちだよ…
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