乃木坂 (短編)
□new ache
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あの日から
約一ヶ月
「えっ…次の土曜日?」
『うん、暇だったら…どっか遊びに行かないかなと思って』
教室で
クラスメイトの理々杏と
のんびり過ごす昼休みに
『史緒里が…良かったらだけど』
名前から突然
ホントに突然すぎるお誘いをもらって
りり「それは…要するに…?」
「…//」
ついに
やってきた
実はこっそり
待ちわびていたデートの約束が
目の前で実現してるっていう嬉しさと
『…史緒里?』
机に座った私の目線に合わせるように
ちょこんとしゃがんだ名前の
若干の上目使いに鼓動が高鳴って
りり「し…しおりちゃん、返事返事!」
隣で肩を揺さぶって
ありがたい催促を促してくれた友人に背中も押されて
もうこうなると
一択しかない答え
それは
十分すぎるほど
分かってるつもりだったのに
「あ…っ、えーっと…うん、い、いいよ?行く?どっか行っちゃう?(笑)」
にもかかわらずですよ…
私、久保史緒里はですね…
好きな人が
名前が相手となると
こんな情けない感じに
しどろもどろになっちゃいまして…
りり「よ…良かったね、二人とも(笑)」
「…//」
もう、あれですよね
りりには勿論のこと
鈍感な名前にさえ
浮かれちゃってるのはバレてますよね…
なんて恥ずかしく思いつつも
おそるおそる目の前にある表情を確認すると
『ん…じゃあ、土曜な…//』
意外なことに
ちょっとだけ頬が赤らんでて
「あっ…うん//」
『……うん///』
それに気づかれたくなかったのか
たったそれだけの会話を交わすと
そそくさと廊下側へ向かっていく後ろ姿
「…//」
りり「名前くん…やけに積極的だねぇ」
横目で見送った背中に
りりの呟いた一言に
そっと
机を近づけて
作戦会議を始めた私たち
「もしかして……さっきの名前ってさ、照れてたのかな?」
りり「うん、間違いないよ」
「いやっ…でも、もしかしたら勘違いの可能性も…」
りり「ネガティブだなぁ、大丈夫だってば(笑)」
「そう…だよね、あれは絶対恥ずかしがってたよね?」
りり「そうだよ!デート誘うの緊張したー!的なやつだよ!」
「だよね?普段は割とクールぶってるし、分かりにくいだけだよね?」
りり「そうそう!名前くんは照れてるんだよ!」
「なるほど!まぁ、そんなところも可愛くて愛しくて大好…」
…
「…っと、危ない危ない…//」
りり「いや、十分聞こえてますよ(笑)」
「もうちょっとで気持ちが溢れ出るところだった…ギリギリセーフだね(笑)」
りり「…既にクラスメイトからの不思議な視線は感じるけどね…?」
とにかく
バレンタインデーの嘘を通じて
友達から恋人へと発展したとはいえ
基本的には放課後に一緒に帰ったりだとか
軽く寄り道するっていう行動パターンは変わらずの関係だった私たちに
ようやく変化のタイミングが訪れたことだけは間違いないから
りり「いいなぁ、休日デートかぁ//」
「ちょっ…やめてよ、もう!そんなんじゃないから(笑)」
りり「しおりちゃん、見たことないくらいニヤケてるよ(笑)」
「そ…そうかな…気のせいだと思うけどなぁ…///」
そんな隠しきれない想いを抱えて
二日後に迫った窓の向こうへ視線を送る
時を早めて
大地も回れと
そして
感情を抑えきれないまま
ようやくやってきた
待ちわびた土曜日の朝
「…え?いま…なんて?」
目を覚まして
さっそく準備に取りかかろうとした矢先
『……ごめん』
携帯電話を通じて
私の耳に響いたのは
『今日…行けなくなった』
掠れた声で
申し訳なさそうに謝る
名前の暗い声だった…