乃木坂 (短編)

□new ache
1ページ/6ページ












あの日から

約一ヶ月





「えっ…次の土曜日?」

『うん、暇だったら…どっか遊びに行かないかなと思って』





教室で

クラスメイトの理々杏と

のんびり過ごす昼休みに





『史緒里が…良かったらだけど』





名前から突然

ホントに突然すぎるお誘いをもらって





りり「それは…要するに…?」

「…//」





ついに

やってきた



実はこっそり

待ちわびていたデートの約束が

目の前で実現してるっていう嬉しさと





『…史緒里?』





机に座った私の目線に合わせるように

ちょこんとしゃがんだ名前の

若干の上目使いに鼓動が高鳴って





りり「し…しおりちゃん、返事返事!」





隣で肩を揺さぶって

ありがたい催促を促してくれた友人に背中も押されて



もうこうなると

一択しかない答え



それは

十分すぎるほど

分かってるつもりだったのに





「あ…っ、えーっと…うん、い、いいよ?行く?どっか行っちゃう?(笑)」





にもかかわらずですよ…

私、久保史緒里はですね…



好きな人が

名前が相手となると



こんな情けない感じに

しどろもどろになっちゃいまして…





りり「よ…良かったね、二人とも(笑)」

「…//」





もう、あれですよね



りりには勿論のこと

鈍感な名前にさえ

浮かれちゃってるのはバレてますよね…



なんて恥ずかしく思いつつも

おそるおそる目の前にある表情を確認すると





『ん…じゃあ、土曜な…//』





意外なことに

ちょっとだけ頬が赤らんでて





「あっ…うん//」

『……うん///』





それに気づかれたくなかったのか

たったそれだけの会話を交わすと

そそくさと廊下側へ向かっていく後ろ姿





「…//」

りり「名前くん…やけに積極的だねぇ」





横目で見送った背中に

りりの呟いた一言に



そっと

机を近づけて

作戦会議を始めた私たち





「もしかして……さっきの名前ってさ、照れてたのかな?」

りり「うん、間違いないよ」

「いやっ…でも、もしかしたら勘違いの可能性も…」

りり「ネガティブだなぁ、大丈夫だってば(笑)」

「そう…だよね、あれは絶対恥ずかしがってたよね?」

りり「そうだよ!デート誘うの緊張したー!的なやつだよ!」

「だよね?普段は割とクールぶってるし、分かりにくいだけだよね?」

りり「そうそう!名前くんは照れてるんだよ!」

「なるほど!まぁ、そんなところも可愛くて愛しくて大好…」






















「…っと、危ない危ない…//」

りり「いや、十分聞こえてますよ(笑)」

「もうちょっとで気持ちが溢れ出るところだった…ギリギリセーフだね(笑)」

りり「…既にクラスメイトからの不思議な視線は感じるけどね…?」





とにかく

バレンタインデーの嘘を通じて

友達から恋人へと発展したとはいえ



基本的には放課後に一緒に帰ったりだとか

軽く寄り道するっていう行動パターンは変わらずの関係だった私たちに

ようやく変化のタイミングが訪れたことだけは間違いないから





りり「いいなぁ、休日デートかぁ//」

「ちょっ…やめてよ、もう!そんなんじゃないから(笑)」

りり「しおりちゃん、見たことないくらいニヤケてるよ(笑)」

「そ…そうかな…気のせいだと思うけどなぁ…///」






そんな隠しきれない想いを抱えて

二日後に迫った窓の向こうへ視線を送る



時を早めて

大地も回れと





そして

感情を抑えきれないまま



ようやくやってきた

待ちわびた土曜日の朝















「…え?いま…なんて?」







目を覚まして

さっそく準備に取りかかろうとした矢先





『……ごめん』





携帯電話を通じて

私の耳に響いたのは





『今日…行けなくなった』





掠れた声で

申し訳なさそうに謝る

名前の暗い声だった…
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ