乃木坂 (短編)

□憂いと未来
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『……一人称、』





もしもあの日

背中を押さずに





『…好き、なんだよね…遥香のこと…//』





そう言えてたら

まさにそんな風景が





「えっ…//」





理想の世界が

広がっていた気がしたのに
































『……マジかよ』





















『…はぁ』





目が覚めた

まどろみの午後



懐かしいけど

もう二度と帰ってこないけど



傍にいて

照れ臭そうに笑う

遥香の夢を見た





『…』





現実は

相変わらず



日常は

止まらず流れて



バイトがある日は目覚まし時計をセットして起きる

それ以外の日にはとにかく家で寝てる



ちなみに今日は後者で

日が沈んでいきそうな

窓の向こうを眺めるだけ





『…』





やりたいことは

未だに見つからない





『…』





田舎の高校を卒業して

大都会に来た理由っていうのも



夢を追ってる遥香みたいに

何か見つけられたらなってくらいで…





『くだらないな、ホントに…』





もしかしたら

どこかで会えるかもって



会ったって

何も伝えられないのに





『…』





でもさっきみたいに

夢の中で会えるなら





『…それだけで幸せか』





















けど

欲を言えば





『……夢の中で暮らせないかなぁ』





また始まった

現実逃避に内心呆れながらも





『……寝よ』





もう一度

会えるような予感がして





『……ふぅ』





ベッドへと

体を預けた瞬間










「ぴーんぽーん!」





















『…』





狭い部屋の

すぐそばにある扉の向こう側



家のチャイムを

鳴らしたフリする能天気な声





「名前ー?起きてるー?」





平日の

夕暮れ時





「借りたマンガ返しに来たよー?」





そんなことで

訪ねてくるやつは

一人しかいない





「おーい、いつまで寝てんのー?」





ホントは

居留守使いたいんだけど



アイツは

きっと一人称が出てくるまでこの調子だから





『……はぁ』





重い体を起こして

玄関へと向かう




ガチャ…





ドアを開けば

予想通りの人物がそこにいて





「お、やっと起きた?」

『…』




















「…いやいや、何で無言なのよ(笑)」

『…』




















「ちょっ、しかもこの至近距離で目そらしたでしょ!?」

『…』





もう今日は

良い夢を見れる気がしない…
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