Labyrinth to Rain (長編)
□crowing me softly
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雨の音が消えなくて
後悔も止まないまま
枯れない涙は溢れ続ける
多分
一生
『…これ、使って』
「ぁ…ごめん、ありがと…//」
『…』
差し出したタオルを受けとると
少し照れた様子で
伏し目がちの感謝を
慰めをくれた彼女は
結局、家まで着いてきた
というか
その気持ちを一人称が拒まなかったのが原因なんだけど
「…」
『…』
とにかく今
部屋の電気を点ける気力もないままの
薄暗い空間にふたりきり
目の前には雨に濡れた髪と
夏仕様の制服が肌に張りついたままの
低体温が伺える君
『…』
「…」
気にはなるけど
それをほんの少し
上回る沈黙
でも
風邪とか引いたら困るよなっていう
案外シンプルな答えが
それを突き破った
『……シャワー使う?』
「…えっ///」
そのすぐ後で気づいた
意味を取り違えてるような反応に
『いや…寒そうだからって意味…//』
「…ぁ、なる…ほど……///」
そのまた後で感じる
余計に増した気まずさを
「あの…じゃあ……お言葉に甘えて…//」
今度は彼女が作ってくれた言葉をきっかけに
もう一度この空気をどうにかすることに
『…そこの扉開けたら、すぐ脱衣場あるから』
「あっ…はい//」
短い簡単なやりとりだけど
言葉を交わす毎にちょっとずつ回復してる気がする関係性に
ゆっくりと通りすぎていく
華奢な背中を目で追いながら思う
傍にいてくれるのが
こういうタイプの人なら
もっと穏やかな時間を過ごせたのかな
だけど…
ピーンポーン
これからと
これまでの世界を
あれこれ考えそうになった嫌なタイミングで
鳴り響いてくれたインターホンに
『……はぁ』
ある種の感謝をしながら
一旦頭をリセットして
玄関へ向かったのがいけなかった
『どちらさま…』
何も考えずに
扉を開けてしまったのは失敗で
「あ、やっぱ帰ってんじゃん!」
…
『…生田…さん』
一人称は一体
いつになったらこんな急展開を
上手くやり過ごせるようになるんだろう…