欅坂 (短編)

□星空
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「はぁ…はぁ、」





多分これ

間に合わないな





「…っ、はぁ、」





一応

走ってはいるけれど

頭に浮かぶのはネガティブな未来で





















「はぁ……はぁ、」





数分後

目的地についた瞬間

数メートル先に走り始めたバスが見えて





「っ…やっぱダメか…」





予想通りだけど

ボヤかずにはいられなくって





「なんでこんな日に遅刻するかな…」





秋が始まる頃

田舎から都会へ引っ越してきた島育ちの私



慣れないことばかりだろうけど

少しずつ馴染んでいければいいな



なんて思っていたけど

まさか転校初日に遅刻するとは






「次は15分後って絶対間に合わんし…」





頬を膨らませつつ

確認した時刻表と空白の時間

肩を落としてバス停のイスに腰も下ろす





「よいしょっと…」





そこから見える景色は

当たり前だけど初めての物ばかりで

街並みも建物も私が生まれ育ったあの場所とは違ってて





「…」





これが

この風景が

私が見ていく世界か





「…」





都会に来たワクワクとか

転校初日の遅刻に落胆とか



そういうのじゃない

何かがそこにはあって



うまくいえないんだけど

息苦しさを感じ始めた時










『はぁ…はぁ、』





どこからか現れた

制服を着た男の子



まるで数分前の私のように

息を切らせてバス停にやってきた





『っ…ば、バスは!?』





















もしかして

私が聞かれてるのかな





「あ…さっき、出ちゃいましたけど…」

『マジで!?』





第一印象

さわやかで元気



もちろん初対面だけど

それは何となく伝わって



私の言葉を聞くと落ち込みながら

少し距離を置きつつ

隣の横長いイスに腰を下ろした





『はぁ…遅刻確定かぁ』





ボソッと呟いたのが聞こえて

同じような境遇だからか

親近感が沸いて





『あ、さっきはすみません!いきなり話しかけちゃって…』

「全然そんな…気にしないでください」





もう一回話しかけられて

驚きと緊張はあるけど



彼のキャラクターが

それをほぐしてくれるような感覚

意外とそこからは話も弾んで





『へぇ、転校生なの?』

「うん…今日が転校初日なんだけど」





















『まさか遅刻?』

「やばいですよね(笑)」

『やばいね(笑)』





一人だと笑えなかった事実が

彼といるとなぜか面白くて



予想外の出会いに

ただ笑ってた私



再びバスが来るまでの時間が

とても短く感じた。
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