欅坂 (短編)

□泡沫
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約束を交わしてからの数日は

記憶が曖昧になるほどに

うつろな日々で

思い浮かぶ






出会った日のこと

バスでしゃべったこと

胸が苦しくなったこと





あしたの

デートのこと







「…やっぱこっちか」





真夜中


自分の部屋


クローゼットを開いて


一人で寂しくファッションショー






「…それともこっち」






客観的にと言い聞かせ


気合いの入りすぎたコーデを


ゆっくり候補から除外していく







「はぁ…決まらん」







最終的に

というか結局は冒険することもなく

そこそこコーデに落ち着きそうな午前3時




そろそろ寝ないと明日起きれないかも

なんて思いながらベッドの上を転がるけれど








「…ねれーん」








枕に顔をうずめて

もう一度思い出す

これまでと




明日の約束








「…」








分かってる

デートじゃない



調子に乗って好きとか言えば

間違いなくフラれる






だって名前には…










「んー!」








枕に思いっきり密着させた顔

息苦しいのに呼吸をとめて考える



彼のことになると

私はどうやらバカになるみたいで



それを理解した上で

目を閉じて思い浮かべる




なんであのとき

海へ行こうって誘いをやんわり断れなかったのか、とか



こんな夜更かしして

じっくり服まで選んで

悶々と答えの出ない問題に頭を悩ませて

意味とかあるのかな、とか





なんで

あの日

あの場所で







出会っちゃったのかな…





















「…ぁ」






うわ

いつの間にか寝てた




カーテンの向こうが

少しだけ明るい



















「やばっ!」






すぐさまケータイを確認



AM11:46






よかった…

あと1時間くらいある



と安心したのも束の間


重い体に気づいてしまい


また考えそうになる今日の行方







「はぁ…」








だけど







「…準備するかぁ」







ベッドから起き上がって

窓際へ近寄って



いっそのこと

雨でも降ってれば諦めもつくけど…





なんて思いつつ




カーテンをあけた



















「…微妙だぁ」







少しだけ怖かった窓の外は







くもり空だった。
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