欅坂 (短編)

□独想
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バスの中

縦だったり横だったり

微かに揺れる身体は



つり革に支えられてて










『ねーむーいー』

「…」

『月曜日の朝ってさ、ほんっっとに眠いよな』

「…」






立っているのがやっとなくらい

心が軋んでる



理由は昨日

帰り際に伝えられたあの言葉










『ここからだと結構遠いのかな…写真で見たら雪が凄くてさ』

「……いつ……行くの?」

『2学期終わったらすぐだから…あと一ヶ月ちょっとかな』

「…」










名前が

引っ越す



この街から

いなくなる





ほんとに急だったから

未だに整理がつかなくて






眠れなかった

気づけば朝が来ていて





ばったりバス停で出会ってしまって

でも名前はいつも通りで









『ねるは?眠くないの?』







せっかく出会えたのに

まだ季節ひとつ分しか経ってないのに








『ねる?おーい』








残った時間の逆算が怖くて

頭の中を整理するのが嫌で




こんな風になるなら




知りたくなかったとさえ思う








『ねる!』

「……ん?」

『えっ、もしかして目開けて寝れるタイプ?』

「…」









そして思い知る現実



名前にとって私は

ただの友達



だから

こんな風にいつも通り





低血圧が教えてくれる

諦めの道は



とても分かりやすくて

とても残酷で







『…疲れてる?』






だけど

同じようにつり革を掴んだ

隣の名前が

ぼそっと呟く







「…えっ//」








いつだったっけ

同じこと

思ったことあるような







『もしかして体調悪い?顔色良くないし、唇もなんか…肌色っぽい』

「…それは前からやけん//」

『あ、そうなの?』







ボーッとしすぎて忘れてたけど

今、バスの中は満員で

名前と

すごい近い距離にいる








『けど昨日もうちょっと赤くなかった?』

「…メイクしとったし//」

『へぇ、一人称そういうの言われないと分かんないや』

「…///」





鼓動が早まって

バレないように俯いて



だけどもう一度

控えめに覗いた横顔は





『…もうすぐ冬だなぁ』





移る季節と流れる景色を

ぼーっと眺めるだけなのに



何でこんなにも絵になるんだろう





「冬……だね……//」





こんな風に

隣で立ってるだけなのに

先のことを考えて

込み上げる感情



名前がいなくなったら

きっと思う





何気ない時間は

貴重で

大切で



だからこそ過ぎていくのはあっという間





寂しさを噛み締める時間のほうが






絶対に長くて苦しいんだって…
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