日向坂 (短編)

□必要悪ガール
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「おまたせしましたー!!」

『…』

「なんですかそのテンション!
せっかく先輩の大好きなハンバーグ出来立てで持ってきたのにー!」

『いや…一応さ、一人称客だよね?』

「ん?そうですけど?」

『だとしたらテンション高すぎない?』

「そりゃ普通のお客さんならそうですけど、私と名前先輩の仲じゃないですか!
むしろ静かにやりとりするのが変な感じしません?」

『しません』

「もぉ…なんか最近冷たいですねー」

『…』

「…ん?」

『なに目の前に座ってんの?』

「お客様がヤケドしないようにハンバーグをフーフーしてあげようかなーなんて…えへへ///」

『結構です…てか自分で言ったくせに何で照れてんだよ』





一人称の通う大学の近くにある

いきつけのファミレス。


そこで働くこの元気な店員

名前は渡邉美穂




初めてこの店を訪れた日からずっとこの調子

もともと高校の後輩で

お互いバスケ部ってこともあったから

体育館で毎日のように顔を合わせてたらいつの間にかなつかれてたっていう…

一人称が高校を卒業してから

何ヵ月かぶりの再会だったにも関わらず

会ってなかったとは思えないほどよく喋りかけてきたっけ…

そのおかげで一人称も気まずい思いをせずに済んでいる気もするけど。



とにかく当時から美穂はお喋り上手というか、

人とのコミュニケーション能力に長けていたし

だからこそこんなに明るく接客業に取り組めるんだろうなぁ…

なんて思ったりもしてて。



それに人懐っこいし…

後輩だけど人として尊敬はしてる。

引っ込み思案で口下手な一人称とは真逆のような人だから。




本人には絶対に言わないけど。







ピーンポーン






そんなことを考えていると

店内に響く呼び出し音





『呼び出しブザー鳴ってるぞ…行かなくていいのか?』

「はい!」

『いや、絶対ダメだろ(笑)
お客さん待ってるんだから』

「そりゃそうですけど…
もうちょっと先輩と喋りたいんですー!」



マジな顔でそんなことを言う美穂…

お前はホントに店員か?



その後もなかなか動こうとしない彼女を何とか説得し、

お客さんの所へ向かわせた一人称

一瞬同僚になった気分を味わった




けど正直なところ、

美穂の面倒な気持ちは分からなくもない…

大変そうなのは見れば分かるし。



ここのファミレスには彼女目当てで訪れる客が多いみたいで、

毎回色んな人に連絡先を聞かれたり、デートに誘われたりするらしい。

まともな接客よりそういうお誘いを断るほうが大変ってよく嘆いてる



まぁ、

あれだけ笑顔振り撒いてたらそりゃモテるよな…

もともと贔屓目なしに可愛いし。





さっきまでの一人称に見せていた表情とは違い、

お客さんの注文をしっかり聞いて真面目に働く後輩を見つめながら

そんなことを思う




けど何でか彼氏がいたって話は聞いたことないな…






まぁいいや

それより今はハンバーグだ。


熱いうちに早く食べようと


フォークとナイフを手に取ったその時


ファミレスの入り口が開いたことに気がついて







『…あれ?』







目をやると

キョロキョロしながら

へにょへにょしている友人の姿



そしてふいに目があって

こっちに近付いてきた








「名前探したよぉ!」

『としちゃん…?』
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