ななせまるの憂鬱 (中編)

□MEMORIES
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あの日



なりゆきとはいえ二人で迎えた誕生日の夜に

プレゼントを買い忘れるというありえない失態を犯した一人称




怒られて当然って状況だったと思うんだけど

お祝いの代わりに欲しいものを聞いたらなぜか抱きつかれて

さらにはすぐ傍で震えていた彼女





そのせいかどうかは分からないけど

時々見せるようになったぎこちない笑顔




それも今思えば一人称が見逃していただけで

随分前から覗かせていたような気もしてて…




けど原因を直接本人に聞くこともできず

臆病をこじらせた自分に幻滅したまま三ヶ月が経とうとしていた







ある暑い日のこと











『夏の思い出を作りたい?』








夏休み目前

大学の講義を終えた陽射しの照りつける帰り道で

空を見上げながら突然そんなことをつぶやいた七瀬







『すっげぇ急だな…てか暑いの苦手じゃん』

「うーん…なんでか分からんけど空見てたら海行ってみたいと思った」






なんだよその理由

こういう不思議なところは変わってないんだけどなぁ







『たまには良いかもな、そういうのも。
けど最近マジで暑いからちゃんと準備しないとヤバいぞ』

「準備?」

『交通費とか水着とかさ。
それに海行ってからも日焼け止めやら色々いるだろうし…
そもそも誰と行くの?』

「…」








ん?

なんでそんなキョトン顔でこっち見てんだ?


















『まさか一人称と行く気?』

「ななはそのつもりやってんけど…」







マジかよ

てっきり生駒でも連れていくのかと…




そう思った瞬間には体が海を完全に拒絶して

歩いていた足も止まった


だって暑いのキライだし

七瀬に引けをとらないくらいのインドア派だし








『そっか…うん。
でも一人称は海行きたいとか一言も言ってないから』

「ななに一人で海に行けってこと?」

『そうじゃなくて!別の人誘って行けばいいじゃんってこと』

「でもななが誘って一緒に来てくれそうな人って…名前くらいしかおらんやろ?」

『どういう意味だよ(笑)』







他にもいるじゃん生駒とか

玲香に若月もいるし…





って全然他の名前が出てこない…

相変わらず知り合い少ないな







『とにかく一人称暑いの嫌いだしさ、どうしても行きたいなら他のや…』

「…」







そこまで言って悟った

きっとこれ以上の断りを入れると


いつの間にか潤んでいた瞳から確実に涙がこぼれる








「……いっしょに行こ?」








予想通り

次に聞こえてきた声は小さく

辛そうな雰囲気を醸し出してて





断る勇気を一人称から奪った








『…もちろん、行きます』








それにしても一人称


いつからこんなに七瀬に弱くなったんだろ…
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