乃木坂 (短編)
□熱帯夜幸福論
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「よいしょっと…」
数分後
想像以上に軽かった彼の身体を
若干引きずりながらだけど運ぶことはできた
身長差もそんなになかったしラッキーだったけど…
『…』
「まだ起きないか…」
気を失ったままの彼と
連れて帰ってきてしまった私
とりあえず傷だらけの顔を手当てしなきゃと思ったし
何でこんなことになってるんだろうって疑問もあるし…
そんなことを思いつつ
幼い寝顔を見つめていると
再び彼は目を開けた…
『……ぁ、またアイ……っ、痛ってぇぇ…』
「大丈夫?一応顔は手当てしたんだけど…身体とか痛くない?」
絆創膏を貼った頬に手をやる彼
その確認が済むと少し顔を歪ませたまま
これが現実だと気付いたみたいで
『こんなに痛いってことは夢じゃないのか……ってことは…本物のアイドル?』
「あ…はい、秋元真夏っていいます」
『すげー!テレビとかで見てました!てかめっちゃ可愛いですね?』
「えっ…いや、そんなことないけど…///」
しっかり意識取り戻してからの第一声がその言葉だったせいか
少しドキっとしてしまったけど
とりあえず私は彼の身元を聞くことにした
さすがにどこの誰だか分からないのは怖いし
もし身内がいるんなら連絡しないとだもんね…
すると目覚めたばかりの勢いそのまま
ためらいもなく自己紹介をしてくれて
名前は苗字名前
パスポートとか免許証は持ってて見せてくれたから間違いない
歳は18で
この春に高校卒業したばかり
今は大学や専門学校には通わずに
海外で仕事をしている両親を手伝ってるらしい
高そうな会社の名刺までしっかり持ってて
多分お坊っちゃまタイプ
どうやら長期で休みを貰ったらしく
日本でゆっくりしようと思い帰ってきたものの
携帯は海外の自宅に置いてきて
飛行機代だけを持って来ちゃったらしい…
かなりぶっ飛んでるノープランっぷりを心配しつつ
一番気になってた身体の傷についても聞いたんだけど
どこの誰だか分からない人たちにやられたらしくて
宛もなく街をさまよっている時に
ナンパされてる女の子を見かけて
助けるためにしつこい男達の腕を振り払ったその瞬間
気付いたら囲まれてボコボコにされてたって…
「本当に大変だったんだね…」
『でも、良いこともありました…おかげで秋元さんに会えたんで(笑)』
「えっ…//」
この子凄いな
普通は恥ずかしいはずの一言をあっさり言っちゃうから
逆にこっちが照れちゃうよ…
そんなドキドキしている私にはまったく気付かず
ゆっくり立ち上がろうとする名前くん
『じゃあ……あの、ケガの手当て本当にありがとうございました』
えっ、まさか…
その状態で出て行こうとしてる!?
「ちょっと、まだ身体痛むでしょ!?それに行く宛だってないんじゃ…」
『そうなんですけど…秋元さんに迷惑かける訳にもいかないし』
そう言って頭を下げると
再び背を向けた彼
その瞬間
どうしてなのかは分からないけど
このままこの子を
手放しちゃだめだって思って
気付いた時にはそれが声になってた
「あの……っ、面倒みようか?」