Labyrinth to Rain (長編)

□purple of mayhem
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だけど



運が良いのか悪いのか



熟睡に注いだ時間が少し段違いというか



部屋の時計が刻む針の位置が



眠る前の記憶とほとんど同じことに気がついて





「…どうする?学校」

『さすがに今から行く気はしないよね…』





昨日の出来事が



今までの出来事がすべて癒えてるはずもないから



とりあえず学校をサボることは確定で





『…今日バイトは?』

「ぁ…うん、一応シフト入ってる」

『……送ってくよ』





時の間を優しく埋めてくれた彼女を

道連れにしてしまったせめてもの罪滅ぼしに



苦い想い出が残るあの喫茶店まで

送り届けることにしたんだけど















『…大丈夫?』

「えっ、」





一時間後

色づき始めた街を並んで歩く一人称の隣には





『いや…気にしてないなら良いんだけど…//』

「あ、これ?全然いいよ(笑)」





一人称が学校で使っている

廃れた紫のジャージを着てるのに

なぜかそれを嬉しそうに指さす彼女がいて





「ちょっと大きめやけど、なんかしっくりきてる(笑)」

『そう…なんだ?』





こんなことになっちゃった原因も

七瀬ちゃんが着てた制服を乾かし忘れてたからなんだけど…





休日にどこかへ出掛けたりだとか

そういうことを滅多にしない一人称にとって



最近の洗濯した記憶がある数少ない衣服といえば

制服とジャージしか思い浮かばなかったから

選択肢の無さにとりあえず謝り続けてたんだけど





「それに…ちょっと嬉しい//」

『嬉しい?』

「なんかこういうの…特別な感じするし//」

『…そっ、か』





その特別に対して

あまりピンときてない一人称の隣で





「…うん//」





ほんの少し先を歩く彼女の

見え隠れする横顔が明るくて





『…//』





夕方とはいえ夏へ向かう日射しが

暑いんだけど優しくて

妙に安心するというか



いつか感じた

汗をかくのがそんなに嫌じゃない感覚を



歩を進めるごとに

ゆっくりとだけど

思い出していけそうな気がし始めたところで










「…ありがと、送ってくれて」







気づけば隣を歩いていたはずの

彼女の足は止まってて

あの喫茶店もすぐそこで





『なんか…あっという間だったね』

「……うん」





















ほんのり漂う



きっとお互い



もう少し



一緒にいたいって感覚に





「の…喉乾かへん?」

『…あ、うん…暑いもんね』





おそるおそるだけど

手招きされたようで





「…何か……飲んで行く?」

『じゃあ…ちょっとお邪魔しようかな…//』





彼女の言葉に誘われて

置きっぱなしの想い出も

全部過去にしたくて



いつもと同じように

通い慣れた空間への扉を開いた時












「さゆりんごパーンチ!」

「いてっ…もっとこーい!」

「…ふふっ(笑)」






なな「…えっ、」

『…』





店の奥から

この入り口まで軽く飛んできた

何やら物騒な音と三人分の声





「めっちゃ悲しいー!えいっ!」

「うほぉっ…ビ、ビンタ!?」

「さ、さゆりん?パンチはどこいったの?」





耳をすませば

明確になっていく声の出所



多分

一人称たちがいつも座ってるあのテーブルあたり





なな「何か…あったんかな」

『…ちょっと見てくるよ』





とりあえず状況を把握するために

七瀬ちゃんには入り口で待機してもらいつつ





「女の子泣かせるとか最低やで!」

「ぶふぇっ!?」

「白い肌がどんどんリンゴみたいに……(笑)」





一人称はおそるおそる



店内に響くその声と

激しめな手の鳴るほうへ



緊張も纏いつつ歩を進めて行くと

いつもの指定席に広がっていたのは










松村「うぅ…なんでやねん…」





膝から崩れ落ちながら

その場で泣き始めた松村





白石「っ…もっとひっぱたいてよ!じゃないと俺の気がすまないから!」





そしてその松村に向かって謎のセリフを叫んでいるのは

チャームポイントだったはずの肌の白さが嘘みたいに

真っ赤に腫れ上がった顔面の白石





橋本「なんだろ、この展開…(笑)」





そんな状況にも関わらず

なぜかひとりだけ笑ってる橋本





『…』





当然

この状況を見ただけでは

何が起こっているのかなんて分かるはずなくて





『…あの、』





少し迷いつつも

妙に懐かしい気がする三人に声をかけた





『……なにしてんだよ、お前ら』
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