Labyrinth to Rain (長編)

□希望の詩は君のもの
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『…』





また始まった

ひとりきりの時間



行き交う人の声

街のざわめき

電車や車のノイズ



どれもこれも耳障りで

色なんかひとつもなくて





『…』





それでも

どうにか心だけは

奪われないようにって



なるべく遠回りをして

誰もいない自宅へと向かう







『…』







だけど

何も考えないっていうのは

意識すればするほど無理な話で



店を出る前

七瀬ちゃんは何も言わなかったけど



多分

助けを求めてた





玲香も

松村もいなくなって



自分ひとりでどうすればって…





気づいてたのに



不安そうな顔を隠しているって



分かってたのに





一人称は自愛の扉に手をかけて…





『…なにやってんだろ』





傘がないままの

夜を怖がってた一人称に



優しさをくれたのに

何もしてあげられなくて





『……当たり前か』





結局

昨日

玲香が言った通り





一人称は

一人称が一番大事で





『…何も……出来るわけないんだから』





ためらわずに

深く堕ちていく心に



反抗できることといえば



生きるための道を

踏み外さないようにすることくらいで





もう巻き戻せない時間の経過と

後悔に溢れるため息を噛み殺すように



ただただ

足元を眺めて







ようやくたどり着いた

見覚えのある住宅街に



薄っぺらい部分だけ

それでもほんの少しは



痛みが和らいだような

和らいでほしいだけのような



そんな気が

し始めた時










「あー!」





















「ちょっとー!どこ寄り道してんのよー!?」

『…』





まだ数十メートル先に見える

一人称の家の前あたり





「てかケータイ!連絡してるんだから出なさいよー!」





透き通る声は多少羨ましくもあるけど

こっちからすれば近所迷惑な人の姿



何度目の制服姿かは

もう忘れたけど





「おかげでこっちはすっごく迷惑してるんですけどー!」





間違いなく



あれは例の人騒がせな

一人称のことを最低と罵った

だけど憎めなくて、自由な彼女で







『…なにしてんだよ』







届かない声で

弱々しく反論しながら



昨日の一件のせいで

気まずい関係なのにも関わらず





「早く戻ってこーい!」





どうして

こんな気持ちになるんだろう





どうして

足元を見ずに歩いてるんだろう





『……はぁ』





本当に



自分でも不思議なんだけど





どうして



一人称の心は



彼女が相手だと



逃げることを諦めるんだろう…
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