Labyrinth to Rain (長編)

□愛は光、想いは雨
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二日後

学校終わり

いつもの喫茶店





白石「…なんだよ、急に呼び出して」

橋本「珍しいね…名前から声かけてくるなんて」





いつもの窓際の席に

集まった一人称たち





白石「…」

橋本「…」





流れる空気はあの日のせいで

多少淀んでいるけれど





『…用件は……七瀬ちゃんが来たら話すよ』





ある意味で冷静というか

開き直ってるというか



自分が伝えたいことを

伝えたい人に届けるっていう



シンプルで

身勝手で

正しい答えのない方法を選んだのは







「…おまたせ」







三人分のコーヒーをお盆に乗せて

戻らない時間を噛み締めるように



ひとりぼっちで運んできてくれた彼女に対する

一人称なりの答えでもあって





白石「お、サンキュー」

橋本「…ありがと」





そして

目の前にいる二人にも

正直な気持ちを話さなきゃ





七瀬「それで…話したいことって……?」





一人称は

いつまで経っても





『…うん』





みんなと

対等でいられないから










『一人称さ…』





















『大事なんだ、三人のこと』
































白石「えっと……名前?」

橋本「…どうしたの?」

七瀬「…」





だけど

口下手なせいか

そう簡単には伝わらなくて



七瀬ちゃん以外の二人は

不思議そうな顔をしてるから





『その…友達とか、異性としてもそうなんだけど…』





もう一度

言葉を紡ぐ





『今まで…みんなに真っ直ぐ向き合ってなかった……ごめん』

白石「…」

橋本「…」

七瀬「…」





形は様々だけど

一人称みたいな半端者に



差し伸べてくれた手を

もう払わないように





『全部、一人称のせいで……本当にごめん』





















訪れた

痛々しい静寂



みんなが分かりきってることを

わざわざ蒸し返してしまったから





一人称が生田さんをここに連れてこなければ

白石は松村と別れなかったかもしれない





七瀬ちゃんに対しても

中途半端な態度を取らなければ

橋本と上手くいってたかもしれない





玲香を

傷つけることもなかったかも





言い出したらきりがないけど

たらればを並べても罪は消えない



だけど

一人称にはもう





他に選択肢がない










白石「…」

橋本「…」

七瀬「…」





自問自答を終えて

また重ね始めた無言の時間に



先の見えない展開に






『…っ』





少し

怯えていると










白石「…名前ってさ、バカだよな」





















『……ば、バカ?』





聞こえてきたのは



何の深みもないようなトーンに

さらっと毒を混ぜた白石の一言で





『な…なんだよ、それ』





こっちはいたって真面目だし

切実な答えを出したつもりだから

その言葉の理由を問い返したんだけど





橋本「バカだね」

『…え?』

七瀬「というよりアホやな」

『えぇ…?』





一人称の発言を囲い込むように

矢継ぎ早に呆れた二人の声が響いて





白石「…お前のせいじゃないって言ってんだよ」





窓の向こうを

ぼんやりと眺めながら





白石「俺とまちゅのことと…俺とお前といくちゃんのことは全然別の話だし」





慰めのような

自責のようにも聞こえる言葉が



一人称たち以外誰もいない

空席だらけの店内に響いて





橋本「多分…みんな同じなんだよ、悩んでたのは」





あの時

こうすれば良かったとか



今からでも

どうにかなるんじゃないかって





取り戻せない時間を

想って悔やんだ自分がよぎる





七瀬「……それでも頑張って、考えてくれたんやなって……伝わってるから」





不器用で

捨てるものが選べなくて



人生を上手く泳げない

息継ぎが出来ない一人称に

コツを教えるみたいに





また

助けられて





本当に

情けなくて










『…ごめん』










結局



溢れ出るのは



申し訳ない気持ちなのに







橋本「そこはさ、ありがとう…でいいんじゃない?」







返ってきたのは

真逆の意味を持つ簡単な言葉と提案で







白石「確かに…言われてみれば名前からありがとうって言われた記憶ないよな(笑)」







笑顔で消すのは

沈みがちな一人称の心とうつむきがちな瞳で







なな「とにかく……よろしくね、これからも…//」







このまま

素直なまま



優しさに甘えても良いのかもって

可能性を感じることができたから





きっとどこかで

それに気づいてたから






















『……ありがとう』







だから一人称は



この繋がりを



失いたくないって思ったのかな…
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