欅坂 (短編)

□泡沫
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「ふぅ…」








約束は13時

いつものバス停で待ち合わせ


案の定

めちゃくちゃ緊張してる私は早めに着いちゃって

ソワソワしながらベンチに腰かけて








「…前髪イマイチ」

「……おまけに顔むくんどるし」

「………はぁ」








鏡代わりにスマホを見つめて

ひとりごとが止まらなくって



気合い入れてないつもりだったのに

いざとなるとあれこれ気になる








「…」








黙ってしまえば

都会らしい休日の喧騒に囲まれて

逃げ場のない心がすり減っていく感じがして









「…ぁ」









気がついた時には

待ち合わせの時刻は5分過ぎていて

名前の遅刻グセは休日でも変わらないのか

なんて思うと少し笑えてきたけど








「…」








10分経過

未だに現れない





もしかして何かあったのかな?

だとしたら連絡くれるはずだよね…






「って、連絡先知らないんだった…」







今日の約束

もし名前が忘れてたらどうしよう…

そもそも本当に約束したっけ?





色んな意味でソワソワし始めた





そのとき









『ねるー!』







微かに聞こえた

私の名前を叫ぶ声




瞳に映った


少しずつ大きくなってゆく

想いと鼓動







『っ…ご、ごめん!寝坊したー!』

「あ…えっと、全然、大丈夫…//」







どうしよう




安心以上に

緊張がすごい




名前と日曜日に

学校の行き帰り以外で会ってるという現実に

思わず声が詰まる




そして初めて見た

制服以外の服を着てる名前

だけど完全に部屋着というか

起きてパーカーだけ羽織って来ましたって感じ

しかも頭はボサボサで






「それより寝癖すごいんだけど(笑)」

『え、マジで?どこ?』

「どこっていうか全体的に…(笑)」

『ちょ、そんな変?』






自然と溢れる笑顔に

緊張も若干和らいで







『ねる、何かいつもと雰囲気違くない?』

「え…そうかな//」

『うん、どこがって言われたら…分かんないけど』

「なにそれ、めっちゃ適当やん(笑)」







走ってきたせいだろうけど

汗が流れる彼の頬は少し赤くて

鼓動が高鳴ってるのは自分だけじゃないんだと

少しだけ気が楽になった




きっと

理由は違うんだろうけど






『てか今さらだけど連絡先知らないよね?』

「同じことさっき思っとった(笑)」

『やっぱり(笑)
とりあえず電話番号教えとくから!』

「あ、うん…//」








まずいな…

二人で過ごすのはこれからなのに




こんなことは全然

序の口のはずなのに






名前がゆっくり発する




11ケタの数字が




頭に全然入ってこない…
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