欅坂 (短編)

□into the silence
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『…はぁ』





通学途中

二人を見つけてしまったせいで

授業なんて受ける気になれなくて

1時限目から屋上にきてサボってる一人称





『また担任に怒られるなぁ…』





とは言いつつも今の一人称にとっては二の次な悩みだから

そのなげやりな勢いのまま寝転んで

相変わらずの青空を見上げた



大体の悩みはこうやってれば忘れられるのに

今朝の寄り添う二人は脳裏に焼き付いたまま

とはいえどうすれば良いのか分からなくて







『…寝るかぁ』






この状況を打開する唯一の方法に身を任せ

目を閉じようとした時

屋上のドアが開いた音がして



まさかサボりが担任にバレたのかと思って

素早く体を起こして振り返って見てみると





「やっと見つけた…」





そこには何故かクラスメイトの女子がいて

少し呆れたような

だけど同時に安心したような優しい顔で笑ってて





『えっ、なにしてんの?』

「別に…授業始まったのに教室戻って来ないから……どうしたのかなって」

『…まぁ、ちょっと色々あって』






そう言うと

ふーんと呟いて隣に座ったクラスメイト

名前は小林由依



彼女も尾関や理佐と同じく去年は同じクラスだったから

それなりに付き合いはあるし割と頻繁に喋ったりする仲で



見た目ちょっとギャルっぽいけど性格かなり大人だし

意外と気が合うから一人称は一緒にいて楽なんだよな



それに最近理佐のことで落ち込んでるとなぜかよく現れるし


一人称なんかを心配して探しに来てくれる優しい友達なんだけど


だからといって悩みを深く聞いてくる訳でもなく

今みたいに隣にいてくれて適当に喋ったり

一緒に空を見上げたりとか…




でもそのおかげで落ち込みすぎないでいられるから



こっそり感謝してる



恥ずかしくて本人に言ったことはないけど…






そんなことを考えつつ

悪くない空気に浸っていると





「…あのさ」





普段から控えめ口調の彼女が

さらにウィスパーを被せながら口を開いた





「私がこうやって探しに来るのって……邪魔、かな…」

『え?』





突然かつまさかの発言に驚いたけど

当然こっちはそれを否定したくて

ちょっと迷いながらも

本音を伝えなきゃって思いが生まれて




『全然そんなことないから、逆に感謝してるくらいだよ』

「感謝…?」

『一人称一人だと色々と考えちゃうからさ…小林がいてくれて良かったって思う時あるし//』

「…そうなんだ//」





その会話を最後に

何故かお互い黙りこんでしまって

けど沈黙も嫌いじゃないからずっとこのままで




しばらくすると



ゆっくり右肩に重みがかかった







『ちょっ、なにしてんの//』

「眠くなったから…寝ることにした」

『あ…なる、ほど…///』





こんな風に時折見せる

天然というか不思議な一面と

突然彼女が起こした衝撃に

尻すぼみしていく自分の声



視線を右に移せば至近距離に彼女の綺麗な髪

首を傾ければ頭同士が触れそうで



緊張が身体中を駆け抜けていく



けど当の本人は全然気にしてないみたいで

微動だにしないまま一人称の肩に頭を預けてて





「…」

『…//』





これは一体

どう捉えればいいのか…





まさか

小林も何かに悩んでるのかな?



もしそうだとするなら力になりたいけど

一人称にできることなんて

きっと傍にいることくらいだし



いつものお返し的な感じで

一人称も深く聞かずにそっとしておけば良いのかな…?




『えっと…じゃあ、おやすみ…?』

「…ん、おやすみ」












何分

何十分かな



しばらくするとチャイムが鳴って

ゆっくり体を起こした彼女も薄く目を開いた





「…途中から本気で寝ちゃってた」

『うん…割と肩に重みが…』

「ごめん!なんか想像以上に屋上の居心地が良くて…(笑)」

『天気も良いからね…(笑)また二人でゆっくり話そうよ』 




それでお互いの抱えてる悩みが紛れるかもしれないし

みたいな意味も込めて割とマジメなトーンでそう伝えたんだけど

何故か彼女は笑い始めて




「苗字って変わってるよね」

『…そうかな?』

「うん、そういうところとか(笑)」

『…?』

「…じゃあ、また今度//」

『うん』

「あ、早く教室戻りなよ?」

『…うん』





その言葉に

ちょっといたずらっぽい笑顔を付け足すと

彼女は屋上から去っていった




なんか途中で照れてたように見えたけど気のせいかな…



というかそもそも一人称

小林に変わってると思われてたのか



授業サボってるせいかな

でも結果的には小林も同じだと思うんだけど

ついでに人の肩にもたれかかってたし…





変わってると言われた理由を探すために

静かで濃厚な時間を振り返っていると

ほどけた緊張感に力が抜けて眠くなってきたのか


ようやく一人称の瞼も重たくなってきて


今度こそと遠ざかる意識と共に目を閉じた瞬間

また屋上のドアが開く音がして



だけど体を起こすのも面倒な領域に突入してるから

構わず放っておこうと思ったのに



寝そべっている一人称の身体に

地面を通して伝わる人が近づく足音



今度は誰だよ…



そうは思いながらも睡眠欲は誘ってくるから

完全に無視するつもりでいたのに







「…なんだ、名前もサボり?」






この声だけは

反応せずにはいられなかった



ゆっくりと目を開けると



広い青空をバックに従えて

一人称を見下ろしている彼女の姿があった







『…理佐?』
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