ななせまるの憂鬱 (中編)

□君の事が
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急がないと…





そんな思いだけで遥か遠い空港へ向かうタクシー


もちろん出費は痛いけど

お金がどうとか言ってられない状況だし





にもかかわらず混んでる道路

加えてなかなかのゆったりペースで動く車の列




イライラを募らせていると

気まずい空気を気遣ったような口調は残しつつ

例の秘密について若月が口を開いた









「海外で…絵の勉強がしたいって」

『…』

「親の知り合いがフランスに住んでて、紹介してもらったらしい」








詳しいことはよく分からないけど…






そう付け加えると

窓の外へ目をやった若月



それを見届けて改めて思う



確かに七瀬は絵を描くのが好きだし

そういう方向に向かっていきたいって言われても理解はできる






けど…









『なんで一人称にだけ言わないんだよ…』









やっぱり頭の中はそればかりで

現状を受け入れられずに漏れる言葉



するとまた隣から声が聞こえてきて









「もしかして気づいてないの?」

『…ん?』

「ここまできたらさすがに分かるでしょ、いくら鈍感な名前でもさ」

『…』







呆れたような口調

だけど強い視線で距離を詰めてくる若月



ただ今の一人称には何のことだかさっぱり分からないし






そもそも…











『一人称って鈍感かな?』

「自覚ないの?」

『うん』

「…」

『…』









目を見開きながら驚いたと思ったら

今度は完全に諦めたって顔



いつもならその豊かな表現力をイジるところなんだけど

今日はさすがに聞けない空気





それに合わせたように車も止まって

見上げると赤信号









「…」

『…』










「………名前はさ、」










けど少しの間の後で

まさかの質問が飛んできた










「なあちゃんのこと好き?」




















『…』











信号が変わった





止まっていた景色が少しずつ






動き始めた。
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