ななせまるの憂鬱 (中編)
□Smells Like Purple Wind
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わか「それにしてもさ、みんな勘違いしてたってある意味凄いね」
れいか「けど留学っていったらそういうイメージじゃん」
なな「ごめん…多分ななの説明不足」
いこ「いや!なーちゃんは悪くない!
悪いのは全部名前だから」
『なんでだよ』
あの日
結局七瀬はフランスへ行った
だけど
その期間が短かった
簡単に説明するとそういうことで
どうやら初めから一ヶ月だけの短期留学だと決まってはいたものの
その話を聞いた一人称たちは留学って言葉のイメージに踊らされて…
『…そばにいてよ』
「それって…帰ってきたらってこと?」
…
『帰ってきたら…?』
「えっ、」
『…』
「留学は一ヶ月だけやから…」
『…』
…
『え?』
うわぁぁぁああああ!!!!
ダメだ!!
改めて思い返すと余計に恥ずかしい!!
人が行き交う空港で手握って
抱きしめて
しまいには傍にいてよなんてくさいセリフ
ドラマの主人公か一人称は…
おかげで昨日空港まで迎えに行った時も死ぬほど気まずかったし!
今だって…
「…」
『…』
隣には座っててもぎこちない空気
特に何を話すわけでもなく
横から聞こえてくる仲間の会話に耳を傾けたり
ピンに向かって球を転がす姿に目をやるだけ
もちろん話したいことはある
フランスどうだった?とか
いつもうるさい生駒が一ヶ月
七瀬ロスのおかげで静かだったことも話したいし…
若月に真夏ちゃんって仲良い友達がいたことが発覚して
玲香が不機嫌な日が多くなったことも…
あとは
「…」
『…//』
横目に映る
バッサリ切った髪
似合ってるねってこととか…
れいか「次、名前の番だよ」
その広がる妄想をひきとめた玲香の一言
立ち上がって球を持ち上げ
レーンに向かう
わか「名前、リラックスなー」
いこ「ガーターのほうがオイシイぞー!」
「…」
後ろから聞こえてくる純粋なエールと適当な煽り
どっちも気にならないほどに浮かんでる君の顔
これ以上はもう引きずりたくないのに
頭から離れない背後の気配
…
決めた
この投球でストライクが出たら話しかける
何言うとか全然決めてないけど
とにかく話しかける!
あの時みたいに思いきって
素直に感情を出せばいいだけじゃん!
そう心に決めて
勢いよく球を放とうとした時
「…がんばれ」
聞き逃しそうなほど
小さな声だったけど
間違いなくそれは君の声で
球を持ち上げる手に
つい
力が入った。