月刊少女野崎くん(短編)

□子猫の時間
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「お前、なにしてんだよ」
「あ、政行。これ」

学校の中庭で夏禀がうずくまっていた。あまり公に言ってないが、こいつは幼なじみであり、少し前から俺の彼女でもある。

月島夏禀。
年は二つ下で、母親同士が親友なため弟といっしょに三人兄妹みたいに育った。
小柄で常に無口・無表情。黒い真っ直ぐな長い髪に少女マンガのヒロイン顔負けなくらい大きな瞳は男女問わず「なんだかほっとけない」と思わせる。
俺も同じだ。しかもこっちは物心ついた頃からでそれなり年季が入ってる。

こいつは俺がそばにいないと、危なっかしくって仕方ない。

「なんかいるのか?」
「・・・子猫」

子猫がいるのか?

夏禀の隣にしゃがみこんで茂みの下を覗きこむとたしかにいた。黒猫だ。生まれてそんなに経ってないくらいちっこいヤツだ。
薄青い眼がこっちをじぃっと見ている。

「昨日からいるの。でも親はいない」

見捨てられたのか。ライオンの親は子どもが弱い個体だと判断するとその子どもは育てないのだというが、猫もおんなじなのだろうか。

「政行」
「ん?」
「出して?」

何で俺が? と思ったが、ぐいと出された夏禀の左手に引っかかれた跡があった。まだ赤く、わずかに血が滲んでいる。

「おま・・・・・・しゃーねぇな」

そっと手を伸ばすとぐるっ、と喉を鳴らしたような声がした。警戒しているのだろうか。

「待ってろ。いま出してやる」

そっと手を伸ばすが、さらに警戒して小さな前肢でひっかこうとする。

なんか、誰かを思わせる。
後ろに回ろうと立ち上がると袖をくいっと引かれた。夏禀がじっと見上げてくる。
行っちゃうの? と言われた気がした。

俺は、コレに滅法弱い。

くしゃっと夏禀の頭を撫でてやる。

「お前はそこにいろ。コイツはちゃんと出してやるから」

茂みの後ろに回り込み、背後から簡単に捕まえることができた。
が、ミーミー鳴きながら俺の指を引っ掻く。爪はかなりしっかりしているからなかなか痛い。

「よしよし、悪かったな。怖い思いさせて」

手の中の子猫を優しく撫で続けてやるとやがてひっかくのをやめて大人しくなった。そのまま夏禀の元へ戻る。

「ほれ、連れてきたけどどうすんだ?」
「ミルク、あげる」

夏禀の手には購買で買ったとおぼしき紙パックの牛乳がある。 

「冷たいとあんまりよくねーんじゃねぇか?」
「冷える前のもらった」

なら問題はないか?
ここじゃあ落ち着かないので近くのベンチまで移動する。
夏禀はベンチに座り、一緒に持っていた紙皿にミルクを空ける。俺に向けて両手を差し出したので、手のひらにそっと子猫を乗せてやった。子猫は俺が予想していたよりも大人しく夏禀に撫でられている。夏禀は子猫をそっと皿の前に置いた。正直、飲むかどうか分からなかったが子猫は皿のミルクに口を付けた。

見届けて、俺もベンチに座る。

「良かったな、夏禀」
「うん、ありがと。政行」

にこりと笑って見上げる夏禀の頭をそっと撫でてやって気づいた。

子猫とこいつ、そっくりだ。

人見知りで、初対面の相手にはばりばり警戒するが、慣れると懐いて、撫でてやると大人しくなる。

しばらく撫でてやると夏禀はそのままこっちに倒れてきて、俺の膝に頭を乗せた。

「お前なぁ・・・ここ学校だぞ?」
「予鈴、鳴るまででいい」

そういうことをいってるんじゃないんだがなぁ・・・とこぼしつつ、俺は夏禀の頭を撫でてやる。

なー。

小さな鳴き声。見れば子猫がこっちを見上げている。

お前もかよ。

夏禀越しに子猫を持ち上げると夏禀が手を伸ばしてきたので、そのまま子猫を渡してやる。
夏禀は俺に撫でられながら子猫を撫でている。

思わず笑ってしまった。

俺の手の中に子猫が二匹。
昼下がりのまどろみの中でゆっくりと時間が流れていた。


***子猫の時間***



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