月刊少女野崎くん(短編)

□ Trick or treat?〜白猫狂騒曲〜
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真冬の背景を描きながら堀先輩が、

「お前ら、演劇部のハロウィーンパーティーに来ないか?」

と、私と野崎くんに言いました。


<ハロウィーン・スペシャル=その1=
『Trick or treat?〜白猫狂騒曲〜』>


毎年恒例の行事らしくて、合宿同様に部外者も誘っていいから、けっこうな人数でなかなか盛り上がるんだって。ただし、

「仮装必須な。衣装はウチで貸し出しもできるから安心しろ」

ということで、私も野崎くんもお邪魔することにしました。

10月31日当日。

「二名様いらっしゃい! 合言葉は?」

陽気なゴーストに迎えられて、私と野崎くんは堀先輩に教えられた合言葉を答えた。

「「トリック・オア・トリート・・・?」」
「ハッピー・ハロウィーン! OKです、楽しんでってくださいね〜。あ、衣装はこっちで貸し出ししてまーす」

指示された方へ行くと部屋中たくさんの衣装で溢れていた。

「千代ちゃんと野崎くん。いらっしゃーい」
「月島先輩!」

合宿で知り合った演劇部の副部長・月島 夏禀先輩が魔女姿で出迎えてくれた。
全身真っ黒。とんがり帽子に長めのマント、でも中はチューブトップだけだからチラッと見える白い素肌やミニ丈のスカートから伸びて、ニーハイに包まれたスラリと長い脚がまぶしい!

「先輩、すごーい!! セクシー魔女!!」

そういうと月島先輩の顔が真っ赤になってしまった。

「これは、部長命令で仕方なくっっ!」

部長って、堀先輩? こんな過激な命令するヒトなんだ・・・。

「でも先輩、似合ってますよ。ひょっとして、あのシナリオ(注1)やるんですか?」
「あれはやりません。私、役者じゃないし、部長がお蔵入り決めちゃったし」

あ、野崎くんヘコんだ。あのシナリオってなんだろう。後で聞いてみよう。

そんなこんなで私も野崎くんも衣装にチェンジ。

私は月島先輩の見立てで、白いレースやフリルいっぱいのロリータ風ワンピースに猫耳と尻尾をつけて白猫に! 髪もたて巻きロールにしてもらっちゃった!
野崎くんはフランケン・シュタインに仮装。頭の横からボルトが出てる。すごーい!!

「野崎くん、そのボルトどうなってるの?」
「いや、よくわからんが、頭が締め付けられて痛いな。でも面白い体験だ」

って。一体どんな構造になってるんだろう?

「わぁ、千代ちゃんカワイー!! じゃあ、千代ちゃんは今から私の使い魔ってことで!」

月島先輩の使い魔!!
でも魔女の使い魔って黒猫なんじゃ?

「でも千代ちゃんは黒より白の方が似合うもの。じゃあ二人とも会場へ行きましょう!」

月島先輩の案内でさらに先の部屋へ。そこにはすでにたくさんの人がいた。みんなそれぞれ仮装してる。アニメのキャラクターとかもいるけど、いいんだ? あ、野崎くんカメラ片手に行っちゃった!

「よぉ、佐倉。よく来てくれたな」

目の前にずいっと現れたジャック・オ・ランタン。大きなかぼちゃ頭を外すと現れたのは私たちを誘ってくれた堀先輩だった。

「堀先輩、今日は誘っていただいて・・・」
「堅苦しいのは抜きだ。皆でワイワイやれればいいってのが今日の趣向だからよ」
「そうそう、だから仮装なんだし」
「そうすると、堀先輩のスーツも仮装の一環なんですか?」

堀先輩はちょっと目に痛い白と黒のストライプのスーツを着ている。
なんか、どこかで見たような気がするんだけど・・・

「あぁ、これはそいつの趣味だ」

堀先輩は横にいる月島先輩を指さした。つまり、月島先輩の衣装は堀先輩の命令で、堀先輩のは・・・

「月島先輩の趣味なんですか? これが?」
「だって、ジャックなら着ているものは白と黒のストライプにしないとダメでしょ?」

あ、そうか!

「ナ●●ア・ビフ●ア・クリ●●ス(注2)ですね!?」
「そうなの! 千代ちゃんはわかってくれたんだー」

だって私もジャック好きだったんだもん!
でも堀先輩は首を傾げている。

「なんだ。そっちでいいのか。俺はてっきりビ●●ルジ●ース(注3)かと思ってた」

な、なんですか、それ・・・
私は疑問符を並べたけど、月島先輩はわかっているようだった。

「それならパンプキン・ヘッド被せないでしょ? さすがの私もアレはさせないわよ」
「あれかと思ったから最初渋ったんだよ。でも衣装だけだったからよしとしたんだ。満足か? 夏禀」
「うん、すっごく満足! そういう政行は?」
「おう、満足してるぞ」

あぁなんかここ、空気が甘い気がする。誰かお菓子ちょーだい!!

「あ、千代ちゃーん!」

向こうで手を振って呼んでるのは、鹿島くんだ。

「じゃあ、佐倉。楽しんでいってくれよな」
「ハイ、ありがとうございます!」

堀先輩は再びかぼちゃを被って行ってしまった。

「じゃあ、鹿島くんのところに行きましょうか」
「月島先輩も一緒に?」
「ええ、私今日は千代ちゃんと一緒って決めたもの」

それがあの使い魔発言なのかな? なんかこういうのも楽しい!

「ハイ、ご一緒させてください!」

*** *** ***

鹿島くんのところへ行くと、そこには結月と若松くんもいた。

「ハッピー・ハロウィーン千代ちゃん! 白猫かわいいね!!」
「鹿島くんドラキュラなんだ!カッコいいよ!!」

私に伸ばされた鹿島くんの手を遮った人がいた。

「伯爵、私に無断で私の使い魔に手を出すつもりかい?」

月島先輩・・・?

「これはこれは麗しの魔女様。大変失礼いたしました。あなたの使い魔とは知らなかったもので」

突如始まったお芝居に唖然としてしまった。

「ではまずは貴女にご挨拶を・・・」

そう言って鹿島くん、否、ドラキュラ伯爵は膝を折って月島先輩の手を取った。

「さーすが演劇部だよなー。即興でここまでできるんだから」

結月の声で私は我に返った。すごい、見入っちゃったよ!

「よう、千代。白猫似合ってんな」
「ありがと。結月も、人魚姫すごいね、似合ってるよ!」

これ、ほぼディ●ニーのア●エルだよね。作ったとしたらスゴい。露出度高いし。でも着ちゃう結月ってば、もっとスゴいなー。露出度高いのに。
そしてその隣には、

「若松くんは狼男なんだね」
「はい、ちょっと暑いですが。なんか楽しいですね、こういうのも」
「ねー」
「私は動けないから窮屈なんだけどな」

窮屈って言いつつ、いろんなものを若松くんに取りに行かせてるし、結月はいつも自由だよね。
でもこの方がいろんな人に迷惑掛けないからいいんだって、若松くんがこっそり言った。ふふ、結月には内緒にしておいてあげよう。

鹿島くんと月島先輩の即興劇はノリノリなドラキュラ伯爵が魔女の首筋に口を寄せたところで強制終了。ジャック・オ・ランタンがドラキュラ伯爵に跳び蹴りかまして魔女を助け出した模様。

「鹿島くん、大丈夫?」
「あぁ、可愛らしい子猫ちゃん。キミのご主人様の想い人はいつも乱暴で困るね」
「それは、鹿島くんのせいだと想うけど? あ、でも堀先輩、怒られてる」
「なんですと!?」

どうも跳び蹴りにご立腹らしい月島先輩。衣装が汚れたらどうしてくれるの、って怒ってる。あ、衣装の心配なんだ。

「そういえば、この衣装って月島先輩の力作なんだよね。そりゃあ堀ちゃん先輩も怒られるよね」
「えっ!? 月島先輩がつくったの!? それ!?」

びっくりだ! 月島先輩って副部長だけじゃなかったんだ!?

「月島先輩は衣装部の責任者でもあるよ。ちなみに、千代ちゃんの服はたしか月島先輩の私物じゃなかったかな」

え、マジすか? どうしよう・・・うっかり汚したら拙いよね??

「大丈夫大丈夫! 元・私物だったはずだから。いまは部の衣装だよ」

ちょっとホッとしちゃった。

と、思ったら電気が一斉に消えた。

『さあて、お集まりの紳士淑女の皆様方、これよりわれらが仲間によりますハロウィーン・ストーリーをお送りいたします』

え? なにごと? あれ? 月島先輩は? 堀先輩もどこにいっちゃったの? 鹿島くん? 結月? 若松くん?? 野崎くんはどこ!?

『いまよりお話いたしますのは、ハロウィーンとは縁の深いこのジャック・オ・ランタン』

スポットライトが落ちた場所に立っているのは、堀先輩・・・?
ジャック・オ・ランタンがひとり、マントを体に巻き付けたようにして佇んでいる。

『なぜこのモンスターが生み出されたのか、お話ししましょう。始まりは一人の狡賢い男と一人の悪魔が出会ったとき』

ジャック・オ・ランタンは狡賢い男、でかぼちゃ頭を脱いだ。でも現れたのは堀先輩の顔じゃなくてトランプのジョーカーみたいな仮面。続いて悪魔、でスポットライトの光の中に月島先輩が入ってきた。被っていたとんがり帽子を脱ぐと頭に二つの角が。先輩が悪魔役!? そして月島先輩も仮面をかぶってる。

ジャック・オ・ランタンの話は知ってる。悪魔を騙し続けて、死んだ後は天国にも地獄にも入れてもらえず、今も地上をさまよい続けている哀れなモンスター。ハロウィーンの夜に、仮装してお菓子をもらって回るのは哀れなジャックへのお供えをするような意味もあるんだって。仮装してる子供たちの中なら本物のジャックが混じっていたとしても分からないから怖いと思わなくて済むから。

あれ? この話、どこできいたんだっけ??

天使と悪魔、天国と地獄のどちらからも拒否されて苦しむジャックを堀先輩は見事に演じていた。セリフはなくてすべてナレーションのみ。これってすごく演技力が必要なお芝居なんじゃない? 月島先輩も役者じゃないっていってたけど、すごく上手いんだ!?

『ジャックは今も地上をさまよい続けています。ひょっとすると、あなたの隣にいるかもしれませんよ』

ヒャヒャヒャ、ヒョヒョヒョと気味の悪い笑い声とともにスポットライトが小さくなって、突然私の周りに誰もいなくなってしまった! 違う! スポットライトが私だけに当たってるんだ! なんで!?

肩を誰かに軽く叩かれた。それは・・・・・・

「キャアアアー!!」

「さ、佐倉!?」
「おい、大丈夫か佐倉!!」

目の前に野崎くんがいた。フランケンシュタインじゃない、フツーに制服を着た野崎くんだった。

「夢でも見たのか?」

そう言ったのは堀先輩だった。あれ? こっちもジャック・オ・ランタンじゃない? あれ?

「夢、だったんだ・・・?」

最後、肩を叩かれた方を見たらみこりんがピーターパンの仮装をして私を見下ろしていた。
似合ってるのか似合っていないのかよく分からなくなるくらいなんか不気味で怖かった。

だんだん思い出してきた。
今回初めてカラー原稿にチャレンジさせてもらったんだ。センターカラーの表紙になるっていう、ハロウィーン仮装の黒猫なマミコとドラキュラの鈴木。緊張しまくってたから、仕上がって乾燥待ちの間につい寝ちゃって・・・

「なんだ。夢か〜」
「おお、そうだ。夢だ夢だ。だからそろそろ離れてやれ?」

堀先輩がニヤニヤしながらこっちを指差す。私、じゃなくてもう少し高い位置・・・? 私は野崎くんに抱きついていた! あわてて飛び退く。

「ごごごごごめん! 野崎くん!!」
「いや、佐倉が正気に戻ればそれでいいんだ」

野崎くん・・・もうちょっとあのままでも・・・惜しいことした!

「そうだ。佐倉が起きたら言おうと思ってたんだが、お前ら、演劇部のハロウィーンパーティーに来ないか?」
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