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□宥めましょう
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薄暗い地下室は、巨人の力を掌握しきれないエレンの為に用意された寝床だ。
住み始めた当初は、時間感覚はおかしくなるし、常に監視されることにイライラしたりもした。
極めつけに、あのリヴァイ兵長との共同生活。
巨人がどうの、というより、ストレスでおかしくなってしまうのではないかと考えたりもした。
が、そんな地下牢とリヴァイ兵長が、エレンにとって、今では最も落ち着く場所になっていしまっているのだから、人生わからない。
「んっ……」
息苦しさに身じろぐと、古びたベッドがギシリと音を立てた。
薄く目を開けると、切れ長な兵長の瞳と目が合う。
「へい、ちょ、う……ん、」
何も言うな、というように、覆いかぶさってきた兵長に深い口づけをされる。
飲み込み切れなかった唾液が、溢れて首筋を伝った。
「ふ……っ、ぅ、」
助けを求めるように手を伸ばすと、兵長に掴まれて、そのまま、彼の肩にまわされた。
「……捕まってろ」
「っは…、い……」
暗い地下牢でも輝いて見える、兵長の目と視線があうと、思わずゾクリとしてしまう。
かつては、この目を見ると、畏敬の念にかられたものだったのに。
いつの間に、こんなに切ない気持ちにかられるようになったのか。
「ん……、ふ……」
兵長のキスは、いつも乱暴にエレンを暴く。
そのくせ、何も考えられなくなるほど気持ちが良いから、たちが悪い。
エレンが気を失うまで、毎晩続くこの行為は、いつしかエレンにとっての精神安定剤になっていた。
「寝ろ、糞餓鬼…」
その台詞を聞きながら眠りにつく日は、リヴァイ兵長の夢を見ることが出来た。
兵長が出てくる夢では、巨人はもういない。
人類が勝ったのだ。
リヴァイ班の皆も生きていて、エレンが、『生きていたんですね』、というと、『俺たちを勝手に殺すんじゃねぇよ』、と言ってエレンの頭をこずくのだ。
そんな、平和な夢。
目覚めた時に、より一層虚しくなるのはわかっているのに、そんな夢にすがりたくて、最近では、つい兵長に強請るような視線を送ってしまうことに、自分でも気づいている。
兵長の優しさに甘えている自分を自覚しながらも、ここから抜け出せない。
思わず涙が零れた。
「兵長……、すみません……」
無意識に呟いた言葉は、ほとんど独り言だった。
それでも、抱き締めてくれる力強い腕を感じながら、エレンの意識はまどろみに沈んでいった
end