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□告白してしまいました
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ふ、と。
手が触れた。
予想外に彼との距離が近づいていて、エレンは息をのむ。
―――ふたりの状況を簡単に言うと、ちょうど、訓練から帰ってきたところだったのだ。
洗い場から二人分のシーツを受け取る為にやってくると、灯りが消されていた。
手探りで灯りを点けようとしていたら、兵長も無言で同じことをしていたらしい。
「…………っ、」
間近で目が合い、ドキン、と心臓がはねた。
「……、好きです」
溢れた思いが言葉になって、気づいた時にはそう口走っていた。
******
「…………で?」
「へっ?」
赤くなるエレンとは対照的に、兵長は冷静だった。
いつもと変わらない態度で、自分の分のシーツを洗濯かごから取り出している。
ついで、という感じで、エレンのそれも取り出すと、ぐいと押し付けられた。
「え……、あの、……、それだけなんです、が……」
好き、と、それ以上のことを考えていなかったエレンは、うつむいて、シーツを握りしめた。
今自分がどんな答えを求められているのか、わからなかった。
応えに窮するエレンにふぅ、とため息をつくと、兵長は振り返ってエレンに歩み寄り、下から覗き込んだ。
「……エレン、お前、俺と恋人になりたいのか?」
「……っ!」
触れられそうなくらい近くに兵長の顔があって、エレンは首まで真っ赤になった。
コクコク、と無言でうなずく。
ふぅ、と、兵長がもう一度ため息をついた。
身体を起こし、エレンから目線を逸らす。
エレンも顔を上げて兵長の横顔をうかがうと、兵長は、彼にしては珍しく、口ごもっているようだった。
「あ…………、」
その表情を見て、エレンはサッと青くなった。
―――兵長を困らせている。
今更ながら、考えなしに告白した自分の浅はかさに気づき、恥ずかしくなった。
馬鹿か俺は、と思うと同時に、じわ、と視界が滲んだ。
情けない顔を兵長に見られたくなくて、下を向く。
「あの、兵長……」
「エレン、こっちへ来い」
「え……」
呼びかけられて、そっと顔を上げると、入口に立った兵長がエレンを見つめていた。
「……っ」
目を合わせることは、出来なった。
さっと顔を逸らす。
兵長の顔を見たら、今、ギリギリで持ちこたえているダムが決壊してしまう。
だって、きっと兵長は、なるべくエレンが傷つかないように振ってくれる。
そう確信するくらいには、エレンは兵長の優しさを知っていた。
それでも、往生際の悪い自分は、その時が少しでも遠くなるようにと、時間稼ぎをしてしまうのだ。
「チッ、……遅い、早くしろ」
最終通達。
ぐっと下唇をかむと、エレンは極力通常通りの顔を作ろうと努めた。
「っ、はい、すみませっ、……ぁっ」
「……」
自分でも驚くくらい震えた声が出てしまって、エレンは言葉を切った。
見ると、兵長も、驚いた顔をしている。
……なんだか今日は、珍しい兵長の顔をたくさん見ている気がする。
「ふは……」
得したな、と思ったと同時に、ついに溢れた涙が頬を伝った。
ぐい、と拭うも、また大粒のそれが溢れる。
どこからこんな水分が出てきたんだと思うくらい、それは止まらなくて、困ったエレンは、手に持ったシーツに顔を埋めた。
「す、すみませっ」
大丈夫なので気にしないでください、とよくわからないことをゴモゴモと口走りながら、エレンはシーツでごしごしと目をこすった。
これ以上、兵長に迷惑はかけられない。
早く止めなければ、と、それだけを考えていたエレンは、すぐ傍で聞こえた舌打ちに、気づけなかった。
突然、ぐいと腕を引かれて、視界がブレた。
「ぇ…………」
パサリと音を立てて、手に持ったシーツが床に落ちる。
「ふ……っ、んっ」
唇に濡れた感触がして、それと同時に、力強い腕が腰と頭に回って引き寄せられた。
何が起きたかわからなくて、混乱した頭で、シーツを拾わなきゃ、と、的外れな考えが浮かんだ。
「ん、んぅっ……」
けれどそれも最初だけで、兵長の舌が、巧みにエレンのそれを蹂躙する頃には、すっかり腰砕けになり、彼以外のことは考えられなくなっていた。
「ふ、は、」
息苦しさにぎゅっと目を閉じると、目じりに溜まった涙がポロリとこぼれた。
それを、兵長の舌が舐めとる。
「……泣いてんじゃねぇよ」
「っは、はい、すみ、ませっ、んっ」
再び口づけられると、涙のせいで、しょっぱい味がした。
二度目の口づけは、優しかった。
「エレン……」
どのくらいそうしていたのだろう。
耳元で名前を呼ばれる頃には、エレンの息はすっかり上がっていた。
自力で立っていられなくて、兵長に凭れ掛かってしまっている。
耳にちゅ、と口づけられると、「ぁ」、と声が漏れて、背中が震えた。
つかんだ兵長の肩を、ぎゅうと握りしめる。
「おい、エレン」
もう一度呼びかけられて、兵長の肩口に顔を埋めていたエレンは、潤んだ瞳をそちらに向けた。
はい、と応えた声は、熱に浮かされており、吐き出す息は熱い。
エレンをそうしたのが自分だということに、リヴァイは少なからず満足し、笑みを浮かべた。
そんなことには気づかないエレンは、ただぼんやりと兵長の顔を見つめる。
「ハッ……、俺の恋人になりてぇって言うんなら、これくらいでヘバッてんじゃねぇよ」
「…………?」
未だ濡れたままの唇に、リヴァイはちゅ、と軽いキスを落とす。
「後悔すんじゃねぇぞ」
リヴァイが何を言っているのか、もはやわかっていないエレンは、ただぼんやりと、自分の思いが奇跡的に成就したことだけを理解していた。
*
《後記》
その後、もちろんエレンは美味しく戴かれました。
ちゃんちゃん。
「懺悔〜」、に繋がっているようなそうでもないような……。
一応どの話も一話完結にしていますが、ろろの頭の中ではぼんやり繋がっていたりします。
こんなふんわりしたサイトでごめんなさい……
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!