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□悩みがあります
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エレンが地下牢で生活するようになって、約1か月が経った。
薄暗く、じめっとしたこの環境にはまだまだ慣れない。

唯一の救いは、綺麗好きな兵長のおかげで、毎日清潔なシーツで眠れることだった。

現在エレンは、そのベッドの上にいた。
手錠と足枷がついてはいるが、それは、日常生活に支障をきたさないよう、ある程度の長さが保たれている。

監視役として常に一緒にいたリヴァイは、現在、会議で不在だ。

こうして一人になってみると、地下牢の静けさは、いっそ不気味なほどだった。

両手で膝を抱え、鉄格子をぼんやりと見つめる。
思い出すのは、実験という名の、エレンの巨人化訓練のことだった。


「つっ……」

右手にピリッとした痛みを感じて視線をおろすと、そこに巻かれた包帯に、じんわりと血が滲んでいた。

途端に、やるせない気持ちになる。


「なんなんだよ……、くそっ……」

敢えて傷口を抉るように拳を握ると、鋭い痛みが走る。
それを振り払うように強く目を瞑ると、エレンは自分の身体を掻き抱いた。



---巨人化できない。



その事実に愕然としたのは、ほんの一週間前のことだ。

躍起になって噛みついた手は、治りきる前に傷口を抉ったせいで、酷い状態になっている。

焦るエレンを見て、「なんとかしろ」、と、兵長はそれだけしか言わなかった。

なんとかしたいのは、エレンだって同じだ。

だからこそ、どうにもならない現状と、どうにも出来ない自分自身に、ただただ腹が立った。

じわっと視界がにじむ。

でも、泣いてしまったら、何かに負けた気がして、エレンは必死に嗚咽を飲み込んだ。


「……おい、エレンよ」
「っ……!!」

はっとして顔を上げると、いつからいたのか、リヴァイ兵長が鉄格子を掴んで此方を見ていた。

思わず息をのむ。
リヴァイの闇色の瞳は、薄暗い地下牢でも、猫のように光って見えるから不思議だ。

この瞳に見つめられると、エレンは未だに身がすくむ。

もちろん頭では、悪い人ではないことを理解している。
特にこの一か月、ほぼ一緒に過ごしていたエレンは、彼の、不器用な優しさに何度も触れた。

けれど、頭ではなく、身体が、彼から受けた暴力を忘れられないのだ。

「リ、リヴァイ、へいちょ……」
「ちょっと付き合え」

言うが早いか、ガチャンと大きな音をたてて、格子のカギが外された。





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