book
□悩みがあります
2ページ/5ページ
黙々と階段を上っていくリヴァイの後ろを、エレンはうつむきながら付いて歩いた。
カツンカツンと、二人分の靴音だけが響く。
リヴァイが持つ松明の明かりが、ぼんやりと辺りを照らしていた。
「……あの、ほかのリヴァイ班の皆さんは……?」
沈黙に耐えられなくなって、小声で聞いてみた。
「今日の訓練は終いだ。それぞれ自室で休んでいる」
振りからずに、リヴァイが応える。
「そう……ですか」
話題終了。
そもそも、この人との共通の話題などないのだから、しょうがない。
ただ、そうと分かってはいるのだけれど、沈んだ顔をしてしまうのはどうしようもなかった。
頭に、ミカサやアルミンを初めとする、104期生の面々が浮かんだ。
同じ調査兵団の一員とはいえ、エレンの行動は、上からの取り決めによって、極端に制限されている。
今のように、兵長を伴わなければ、地下牢から出ることさえままならなかった。
……会いたい。
思わず零れそうになった考えを追い出すように、頭を振ると、改めて、兵長の背中を見た。
前を歩くその背中は、世間が言う、人類最強の兵士にしては小さい。
彼を大きく見せているのは、その背中に、幾人もの想いを乗せているからだ。
リヴァイ兵長は、懐に入れた仲間を本当の家族のように大切にしている。
彼が、毎朝、巨人との戦いで死んだ仲間の墓参りに行っているのを、エレンは知っていた。
その多くが、死体すら回収できなかったと、静かに憤りながら語ったリヴァイの表情を、エレンは忘れない。
そして、決して口には出せなかったけれど、死んでからも兵長にそこまで思ってもらえる、名前すら知らない誰かを、うらやましい、と思った。
巨人化できないエレンは、本来なら、リヴァイ班に入れるような実力ではない。
くやしいが、それはエレン自身がよく分かっている。
だからこそ、今の自分を兵長がどう思っているのか、怖くて仕方なかった。
ギィッと音を立ててリヴァイがドアを開ける。
涼しい夜風が二人の髪の毛をかき混ぜた。
少し肌寒いが、地下よりよっぽど清々しい空気に、エレンはハッと顔を上げた。
「さっさと来い、愚図」
「は、はいっ……!!すみません、」
目の前で、兵長が重たい扉を、閉じてしまわないように腕で支えていた。
慌てて外に出たエレンは、そうして、目の前に広がる光景に息をのんだ。
*