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□悩みがあります
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―――言ってしまった。

嗚咽を止められないまま、エレンは瞳をぎゅっと閉じた。

なんて自分勝手なんだろうか。

死ぬのが怖いから巨人化できない、なんて。

自分でも、最低だと思う。

けれど、それは紛れもなくエレンの本心だった。

「すみ、ませんっ……」

こんなに弱くて。

「兵長、すみませっ…」

こんなに醜くて。

目を開けるのが怖くて、とにかく謝罪の言葉を連ねた。

静かな空に、しばらくエレンの声だけが響いた。



「……わかった」


凛とした声が響いたのは、それからどのくらい経ってからだろうか。
いい加減涙も枯れ果てて、涼しい夜風が火照った頬に気持ちがいいと、ぼんやりしていた頃だった。


「え……、へい、ちょう……?」

急に圧迫感がなくなったと思ったら、兵長が足をどけていた。

「付き合わせて悪かったな、戻るぞ」

そう言って、兵長は立ち上がると、首を回した。
その一連の行動を、エレンは、腫れぼったい目のままポカンと眺めた。

「え……?、え……?」

それだけなのだろうか。
てっきり、また歯の1本や2本、折られるだろうと思っていた。

ぼんやりと見つめるエレンの視線に気づいたらしい兵長が、エレンを見下ろすと、顔をしかめた。

「おい、いつまで転がっているつもりだ、さっさとしろ、愚図」
「…っ、は、はいっ」

焦って起き上がると、リヴァイは既に入口に向かって歩きはじめていた。

慌ててその背中を追う。

「あ、あのっ!!リヴァイ兵長っ!」

「なんだ」

来た時と同じように、リヴァイは松明を掲げると、もう片方の手で扉を押し開けた。
兵長に続いて、エレンも室内に戻る。

室内の空気は暖かく、いつのまにか、芯まで冷えていたことに気づく。

「あの……その、」

カツンカツンと、二人分の足音が響いた。
兵長は足早に階段を降りていく。

「……チッ、さっさと言え」

「お、怒って、らっしゃいますか……?」

「あ?」

どすの利いた声に、思わず身がすくむ。

そうしてそのまま、つい立ち止まってしまう。
すると、それに気づいたリヴァイも足を止め、ひとつため息をつくと、エレンを振り返った。


「いいか、お前、エレンよ」

「はい……」

「俺はお前に、悩みを聞き、お前はそれに答えた。それだけだ」

「はぁ……」

そう言ってしまえばそうなのかもしれないが、どうにも釈然としなかった。
結局、問題は何も解決していない。

悩みを吐き出した今だって、エレンは巨人化できる自信がなかった。


「……チッ、餓鬼が、いっちょ前に綺麗事ほざこうとするんじゃねぇ」


兵長が、今下ってきた階段をもう一度昇り、エレンの目の前まで来る。


「さっきも言っただろ、ぐだぐだ考えてんじゃねぇ。そういうのは、俺たち大人の仕事だ」


松明の明かりに照らされて、兵長の瞳が紅く揺らめいていた。


「へい、ちょう…?」

「お前が死ななくて済む方法を、考えてやる。それで終いだ」

「……っ!」

思わず、目を見開いた。
兵長の顔を凝視するが、至極真面目で、冗談や、でまかせを言っているようには感じられない。


「……わかったらとっとと寝るぞ。お前は、明日は一日庭の掃除だ。石ころひとつ残すな」


そう言うと、話は終わったとばかりに、今度こそ振り返らずに、さっさと階段を下っていってしまう。


徐々に遠ざかるその背中が、また滲んで見えてきた。

ありがとうございます、と言いたいのに、嗚咽を飲み込むのに必死で、それは言葉にならなかった。







end




《後記》

最後まで読んで下さってありがとうございます。

単行本6巻に出てくる、「エレンを半殺しにする方法」を兵長が考えるに至った経緯、みたいな妄想です。

もちろん、本編とのつじつまは合いません!!

ついでに、これがリヴァエレなのかそうでないのか、書いている私自身、よく分かりません(爆)!!!

とにかく、エレンがリヴァイになつき始めるきっかけが欲しいな〜、なんていうフンワリした妄想から生まれた産物です。

お目汚し、失礼いたしました―――――……!!!
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