小ネタ

□差し伸べられた手を払ったのは、僕だ。/鍾会
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最初は戦いで敗走した時だ、呑気に「怪我はないですか?」などと手を差し伸べてきた。
「私を馬鹿にしているのか?!」
こんな屈辱的な事はないと手を思い切り払ってやった。
あいつはただ「すみません」と、少し困ったように笑っていた。
それが余計に腹立たしかったのを覚えている。

次は任務を失敗した時だ、今度は「無事でよかったです。」と言ってまた手を差し伸べてきた。
「お前も…私を情けないと笑っているのだろう…?!」
何か言っていた様な気がするが、さっさとその場を後にした。
同情なんて、要らない。

その後の戦いで今度こそ汚名を返上し、名誉を挽回するつもりでいた。
なのにあいつは止めてきた、私の手を摑んで
「一人で突出するのは危ない!功を焦っては駄目です!」と。
「一々お前は…!私の邪魔をするな!放せ!」
私はまた振り払った、あの女の、最後の手を。

今、冷静に考えると、あの女の言う通りだったのだろう、忌々しい事に。
だがもうあの女はいない、私を庇って死んだ、討死だ。
本当に馬鹿だ、実に馬鹿馬鹿しい

……どっちが…?あの時、手を振り払わなければ何が変わったのか?
あいつは死ななかったというのか?

あいつは死んだ。もう何処にもいない。私に手を差し伸べてくることも、もうない。
あの女の最後の言葉を思い出す。何が「貴方はすごい人だから、きっと大丈夫です」だ。
大丈夫だと言うのなら、今、私に、その手を貸せ。

だが、差し伸べられた手を払ったのは、払い続けたのは、私だ。
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