うちのこ物語

□ちびっ恋
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気がついたら、僕の成長は止まっていた。

別に病気とかじゃない。高校生になっても150にも満たない僕のことを心配した両親が様々な病院で調べたのだから間違いないだろう。
まあ確かに高いところに手が届かなかったり 公共機関で小学生に間違えられるのはちょっと、いやかなり悔しいが

普通に生活をする分にはなんの支障もない。
むしろこの身長のおかげで交友関係も幅広いものとなった。
同じ背丈くらいの子供から、同じ年齢の大人。たくさんの人と仲良くなれるこの身長に感謝しているということもある。

だがしかし、年相応の身長が欲しいと思うこともある

例えば・・・・

「敵っ!敵!藤野くんは敵なの!」


例えば、好きな人に敵扱いされる時、とか。



僕が仕事で出会ったヒナギクさんは、僕よりも年上であるにもかかわらずかなり小さい。
まあ女性だということもあるから身長が僕より小さいのはまあ普通だろう。

だがしかし、まあいわゆる僕も「チビ」という部類で。
20を過ぎたにもかかわらず147cmという状態である。一応僕は捜査課でも幹部という立場にいて、それなりに身長偉い立場だ。しかしこの身長が仇となり年下の子にも上司としてみてもらえなかったりする。
それはちょっと悲しかったりする。

まあそんな僕より小さいヒナギクさんは、自分より身長を高い人を敵とみなす傾向があるようで。
最初に会ったときは僕も彼女を自分より年下だとおもっていたくらいだ。
実際は僕よりも8歳年上だと知ったときは驚いた。それまで軽く接していたのが申し訳ない。そう思い軽く謝ったところ、ヒナギクさんは僕のことを「敵」とみなしたようだった。

どうやら彼女は僕のことを(身長的な意味で)仲間だとおもっていたらしい。それが僕の方が年下で、しかも僕の方が身長が若干高かった。それが理由らしい。以降僕が関わろうものならなにかと自分の方が年上だということを主張してくる。

最初のあのにこやかな感じはどこにいったのだろうか。彼女と仲良くなれて嬉しかった僕は、敵とされたことにほんのちょっとだけショックを受けたのはまた別の話。

彼女はよく周りの人に子供扱いされてはむすっとしてる。彼女のいる研究課は慎重の高い男性も多い。彼らはヒナギクさんのことを軽くあしらっていたりする。身長があるゆえの余裕なのか、そうなのか、と思うとなんだか悲しくなる。

身長が高ければ、彼女の言うことも可愛く見えるのだろうか、とことごとく思う。実際彼女の周りの高身長の人は、彼女の言葉をあまり気にしてないように見える。
僕からすると彼女の言葉はまあ、身長の悩みはよーくわかってしまうので深く重い。僕にも重なることだからだ。
高いところのものを取る時に台にのったりする姿を見かけると目がうるんで来る。


そんな彼女のことを目でおって数年。いつの間にか僕はただの知り合いとしての好意から一人の男として、彼女のことを好きになっていたわけだ。





*
「ていうわけで、僕はどうしたら身長を伸ばして余裕を生むことができるようになるのかな・・・」

「知らないってそんなこと」

街中にある行きつけのカフェで僕はそう同僚であるヅツミにそう愚痴った。

ヅツミは僕の高校時代の先輩だ。先輩といっても全然敬語なんて使ったことはない。僕らが入っていた園芸部は、部員が2人しかいないというかなり悲惨なもので、上下関係なんて何処かにいってしまうくらいだった。

「ヅツミは ヒナギクさんと仲がいいんでしょ・・・?彼女の好みとか知らない・・・?」

「自分で聞きなさいよ自分で」

「それができたら相談なんてしないよっ!!」

机に突っ伏していた体をガバッと上げる。突然の行動に驚いたのか、ヅツミはしばらく目を見開いて硬直した後、はぁ、とため息をついて先ほど注文したミルクティーを飲んでいる。

「それができるからこそ男なんじゃないの?出来ないから身長伸びないんじゃん」

「ヅツミだって伸びてないじゃん」

「あたしは女だからいいの」

つーんと突き返されてがっくりと肩を落とす。僕だっていろいろ彼女の気を引こうと努力してはいるのだ。
彼女を見かけたらなるべく気がつかれないように観察して彼女の好みを探ったり…


「そういえばヒナギクが「最近藤野くんの目つきが怪しいの」とかいってた気が」

「終わった!!!!」

どうやらかなり警戒されているらしいことをヅツミから聞き、僕は絶望に駆られた。

あぁ、さようなら僕の恋。できることならこの絶望ごと遠くに飛んでいって僕の記憶から消えてはくれないだろうか。

「何しんみりしちゃってんの・・・・キモい」

「だって・・・・僕もうこれ玉砕じゃん・・・告白もしてないのに」

「そんなことないって!まだチャンスはある!目つきが怪しいって言われただけじゃん!!」

「それが一番心に突き刺さるんだってぇ・・・・」

そんなこんなで僕は今日も恋をしています。









*
後日


「おーい藤野ー!この資料って・・・・なにうずくまってんの」

「ヅツミよかったよ・・・・ヒナギクさんちゃんと僕と話してくれたよ・・・・気持ち悪いとか言わなかったよ・・・・(泣」

「あー・・・ソリャヨカッタネ」

*あとがき→
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