うちのこ物語

□はじまりの町へ
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寒い、すごく寒い。

勢いで村から出てきてしまってもうどのくらいにになるだろう。狩りはできるし山菜についての知識もあるから食べ物に困ることはなかった。狩った獲物を通りかかった村で売ってお金を稼ぐこともできた。

ただ、どこの村にいっても 長居することができなかった。

鬼だとバレる訳にはいかないから笠をかぶったり布で頭を覆ったりもした。
それでもやはりいつもつけていると怪しまれる。というより私の年齢で一人で出歩いていると怪しまれる。

最初はにこやかだった村の人間たちも、最終的には私を怪しんで鬼だとばれそうになったり、角が見られてばれたりもした。

その度に村を出て、もうどのくらいの人里に行っただろうか。

私は、暖を取れる場所がなかった。

「ふぅ・・・・寒いなぁ・・・・」

近くで集めてきた落ち葉や木くずに火を付ける。ちょうど洞穴も見つけたので助かった。

外を見ると雪が降っている。もう、冬なのだと改めて思った。

「村にいた時はなにしてたっけ・・・・お鍋作ったり一緒に狩りをしたり・・・・」

彼のことを思い出すと自然と笑みが浮かんでくる。あの頃は本当に楽しかった。村の人にも嫌われて、二人ぼっちだったけど毎日が幸せだった。


あの日、彼が人間と仲良くなりたいとおもっていると知ったとき、私はなんというか、やらなくてはいけない、という気持ちに駆られた。

すぐに計画を立てて村の人たちに悪いことをした。ちょっとしたものを壊したり、子供をおどかしたり。

もともとそういうのは苦手だったけど、なんとか彼と村の人間たちを仲良くさせることができた。

彼が笑っているのを見ると、すごく、すごく嬉しかった。

でも、もう私はあの村にいることはできなかった。また私が彼といるところを見られたら全てが台無しになってしまう。

私は家にあったちょっとのお金と笠だけを手に家を、村を出た。





「んーねむいなぁ・・・・」
火の揺れる姿を見ながらうつらうつらと船を漕ぐ。寒さのせいでどんどん眠くなってくる。

-彼は、いま幸せだろうか。村の人たちと、なかよくできているかな。



そんな姿を想像すると ちくり、とすこし心が痛くなる。


早いところ住める場所を探さなくては。このまま本格的な冬になり、寒さがましてきたら凍え死ぬだろう。


「早く・・・・はやく、さがさ・・・なきゃ・・・」
どんどん意識が闇の中に落ちていく。心地よい気持ちの中、また彼の顔が思い浮かぶ。

「・・・あいたいなぁ・・・」

意識が沈む寸前、赤く揺れる炎のなかに、彼の色が見えた。






『あなたも、ここで』








目を開けると、窓から明るい光が差し込んでいる。
鳥の声が、朝を告げているようだ。


「・・・・あれ・・?」

目をこすり、体を起こす。
周りを見ると質素な家具が数個、私が寝ていた敷布団のまわりにポツンとある。
入口付近にはシロツメクサでつくった冠、 奥の方には機織り機もある

「あれ・・・?わたし、なんか変な夢見てた気がする・・・・」

不思議に思いながら手を頭上にのばす。
そういえば、今日は昨日織った反物を売りに行くんだった、と思い、布団から出る。

窓を開けると爽やかな木の香りが部屋中を包んだ。

「今日も一日、楽しい日でありますように」

そう願い、誰に言うでもなくそう呟いた。

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