うちのこ物語

□願い
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深いため息を尽きながらカップに手を伸ばす。

今日はちょっとした気分の違いから、酒場に足を運んだ。先日のごたごた(主に自分が悪い)のせいでカミーラとギクシャクしてしまい、店にいづらかったのだ。

今日はカミーラもまだ帰ってきていない。一人で店にいるのもなんとなく億劫だったので、メアツは気分を変えるために賑やかであろう酒場に向かったのだ。

あまりお酒の飲めない自身だが、ワインくらいなら…と軽い気持ちで扉を開けたことを後悔したい。


「………………うっわ、葬式会場?此処」

見かけた3人の姿に思わずそう言ってしまった。
シャトーと近靖とフォルキス、なかなか最近は見ない面子だな、とは思ったが口には出さずに小馬鹿にしながら見上げる。自分よりも身長の高い3人を見上げるのは何時ものことなのだが、なんだか今日は3人そろってぼけっとした顔をしている。笑ってしまうのはしょうがないと思う、うん。

見上げると3人ともメアツの方に視線を寄せてきた。あまりいい気分はしなくムッとするとシャトーから呼ばれる。嫌な予感はしたものの断ると面倒だなーと思い、3人のそばに座った。






***



心底どうでもいいし羨ましいしうざい



それがこの3人の会話から得た結論だった。
片思いをしている人ならいい。いやむしろ同情するし応援するし。だがしかし、

「リア充はいいよな、」

別に誰に向けて、とは言わないが察したのかシャトーが顔を覆う。くそ、リア充め。
その肉球ふにふにしてやろうか

そう手をわきわきさせたが自重した。


ふと先ほどの会話を思い出しつぶやく

「愛しい人を、手に入れる方法…」

頭に思い浮かぶのは彼女の顔。



最初はちょっとした同情からだった。
ミルクティーを欲するあの姿は流石に同情するしかないだろう。
そこからなし崩すように同居することになった。
メアツはその時、初めて自分に他人を思う気持ちがあるんだと知った。

過去、いやあの不思議な夢の国にいたときは、そんなこと思いもしなかった。
一体何度『アリス』を迎え入れたかもはっきりしない。女王の仰せのままに、というのはこういうものなのだな。と勝手に納得してひたすらアリスに嘘をついた。
人としてどうなのだろう、と思ったこともあったがまあ実際人ではないのだからしょうがない。

どうあがいても自分は『ウサギ』で彼女は人間。

種族の違いというのを感じないこの場所でも、なんとなく抵抗はあった。
そもそも自分が気にしなくても、彼女は気にするのではないか、と柄にもなく深く考えてしまうのはきっとそれだけ思いが強いからだろう。

普段の人を小馬鹿にする態度、嘘を平気でついて他人を騙し喜ぶ性格。これらはあの国で勝手に作られた自分の特性であり本来のメアツではなかった。

今じゃそれが普通になり、それをすんなり受け入れる自分がいるのだから馬鹿のようだ。

他人受けする性格じゃないのは重々承知だ。それでもこの馬鹿げた性質を治そうとしないどころかいつか受け入れてもらえるのではないかと考えるいかれた脳みそがある。




イカレウサギ、三月ウサギ。



なんだ、自分にぴったりじゃないか。

好きな人がいるならその人に好かれる性格になれよ、と突っ込みたい。
だがこのひねくれて180度ねじ曲がった性格は早々戻ることもないらしい
席を離れ、一人で外にでて、ため息を付くしかなかった。



***



「まだ、帰ってない…」

喫茶メーアの扉を開けて、中に入るとメアツが出て行った時と変わらない店内が静かに待ち受けていた。

もう夜だしそろそろ帰ってきていると思ったのだが読みが外れていたようだ。
部屋にいるのかと思ったがなにも音がしないところを見るとやはりいないらしい。

「お腹すかせてなきゃいいんだけどな・・・カミーラ」

はあっと何度目かわからないため息を着く。
ふと酒場での会話が頭をよぎりブルブルと頭を振って紛らわした。


あのふわふわした髪の毛を触りたい。


無意識に手を動かしてハッとする。

なんだ俺は、気持ち悪い



よくわからない自己嫌悪に陥った自分が嫌になる



「いつか、いつか、言えればいいけど」


そのいつかが来る日なんてあるのか。







『おかえり、紅茶はたしておいたから飲んでね』


メモ用紙にそう書き、カウンターにおいて部屋に戻る。

あの日からギクシャクしたままだけど、よくは言わないから

また馬鹿みたいな言い合いをする仲に戻れたらいいな、という思いを込めて

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