Ag魂
□知らないままで、君は死ぬでしょう
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私は彼のことが密かに好きだった。
だけどとても臆病な私は、身近な人にもそのことを打ち明けられないまま、過ごしていた。
彼に好きな人がいたと知ったのは、彼の好きな人が亡くなった後だった。
もしかしたら、今なら。
私に振り向いてくれる機会なのではないかと思ったが、姉を亡くした沖田隊長が怖かったからだとか、想い人の土方副長が泣いていたからだとかという理由をつけて、結局何もしないまま。
そうこうしている内に、私は別の人から婚約を申し込まれてしまった。
真選組で女中をしている私。
真選組という男所帯、結構な肉体労働、お給料の低さを心配してくれた人がいた。
江戸で商人をやっている優しい人で、なにも文句はないのだ。
こんなにも愛してくれる人ができるなんて。
そう考えると、もう副長が好きだったなんて事実どうでも良くなった。
「結婚、してくれないか。君が本当に好きなんだ」
ああほら、副長はミツバさんに言ったとしても、私にこの言葉は言ってくれない。
この人は言ってくれる。
こんなにも優しい声色で、優しい笑顔で、優しく、優しく。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。その、あの、私もあなたが大好き、です」
顔を赤らめた私は、今まで真選組で男に囲まれて仕事してきたとは思えないほど、女らしくなれただろう。
この人の好みに近づけるようになろう、と誓う。
「と、いうわけでこの度私は結婚することになりました。近藤さん」
「えええええええええ!?そ、そんないきなり!?俺、今まで何も聞いてないよ!」
「えっ、なんで近藤さんに言わなけりゃいけないんですか」
そういうと、わかりやすく近藤さんは項垂れた。
隣でそれを聞いていた沖田隊長は、興味なさそうに欠伸をひとつおとす。
「まァ結婚は勝手にしてくだせェ。ただ、この仕事は続けるんでしょう?」
そう言った沖田隊長に私は口ごもる。
商人をやっている彼に嫁ぐのだから、私が働く必要などないのだ。
それに、彼も私が真選組で働くことを心配している。