時をかける少女達 book
□第十六夜
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真夜中、今夜は新月とあってか星がよく見えている。松明は和輝に指示された通り、数は少なく寝殿沿いに並べられた。
『聞いたか、昼間に妖がこの内裏に出たらしいぞ』
『あぁ、だが中にいた蔵人は全員気絶していたとか』
『得体の知れぬ輩が内親王様を救ったそうじゃないか』
「・・・・・・ウザい」
「燐、その気持ち分からんでもないがあんまり口に出すなよ?」
「だっておかしくない!?助けたの和輝なのに何が『得体の知れぬ輩』よ!!」
「そんなもん、一々気にするな。言いたい奴等には言わせておけばいい」
「ムゥ〜・・・」
和輝と燐は寝殿から見えない位置、つまり松明の光でも見えない位置にいた。
和輝は昼間とは違い、紅い衣に白の狩衣といった姿に龍の仮面をしていた。
燐は膝上10cmほどのスカートに、桜の花が散りばめられた白の着物をピンクの帯紐で止め、さらにオレンジの組み紐に蝶の留め具をしていた。
「まぁ、見てもいいって言ったのは俺だし?それにこんくらいじゃ、支障はない」
「でも「それじゃ、いってくる」」
和輝はこれ以上、燐に何も言わせまいと用意された場所にいってしまった。
「お静かにお願いいたします。これより、浄化の儀を行います」
和輝は竹としめ縄で創られた五方星の中心に立った。腰には剣が下げられ、手には扇が握られていた。
「伏して願い奉る この地に住まう五行の神々よ 我が声に応え」
仮面をしたままの和輝の表情は、興味本意で集まった貴族からは、全くと言っていいほど見えないし、何を言っているかさえも聞こえない。その姿は、ただ扇を宙で止めているようにしか見えない。
「火の神
水の神
木の神
土の神
金の神
今ここに集えされば かの地の神
解放せん!
」
竹に繋がれた布が、風も無いのに揺れ始めた。そして次の瞬間何もない空間に突如亀裂が走った。寝殿にいた貴族達は驚いてざわついていたが、和輝は気にするわけもなく、亀裂の広がりをずっと見ていた。
《我を呼んだか?》
亀裂の中から、天女かと見間違うほどの女性が、和輝の前に現れた。和輝は土地神を確認すると片膝をつき、頭を下げた。
「二度にわたり、橡神様をお呼びしたこと、深くお詫び申し上げます」
和輝が頭を下げそう言うと、土地神は和輝のすぐ目の前に舞い降りた。
《二度・・・?あぁ、そなたは昼間の者じゃな?別によい。我に用があったのだろう?》
橡神は密かに微笑んだ。だがそれは、簀子にいる貴族や燐には今一見えてはいなかった。
《して、我に用があるとは?》
「ハイ。差し出がましいやもしれませんが、この地を浄化したいと思い、お呼びした次第で御座います」
《此の地の浄化を、そなたがしてくれるのか?》
「土地神様が、お望みとあらば」
《では頼もう。もとの地へと戻してはくれまいか?》
「承知いたしました」
和輝はそう言うと身体を起こし、土地神を見下ろした。
《そう言えば、そなたの素顔をまだ見ておらぬな。その仮面、外せ》
突然の土地神の命令に、流石の和輝も驚いた。だが、仮面を外せと言われても周りには見ず知らずの人間が多い。和輝が返答に困り果て黙り込んでいると、土地神が微笑んで近くまで寄ってきた。
《心配せずとも、今のそなたの顔はあの愚か者達には見えぬ》
確かに、今は背を向けているので寝殿にいる貴族からは、和輝の顔は見えない。和輝は観念したのか、つけていた仮面を外した。
《ほぅ・・・そなたのその瞳は実に美しい》
力を使ったせいか、和輝の瞳は漆黒から碧みがかった銀へと変わっていた。だが和輝は何か思い出したかのように、その瞳を閉じてしまった。
『どうした?何故隠そうとする?』
「・・・なんでもありません。それでは、今よりこの地を浄化いたします。異国の唄と舞ですので、お気に召されるかどうかは分かりませんが、よろしいですか?」
《かまわぬ。始めてくれ》
土地神の言葉に従うかのように、和輝は扇を自分の胸元まで持ってきた。そして何かを口ずさみ始めた。
螺旋 翔け昇り 届け・言葉・想い
白く 輝きて 重なり響き合う
ひび割れた大地が
絆さえ引き裂く
失った痛みに
気づく時 はばたけるや
螺旋 翔け昇り 届け・言葉・想い
白く 輝きて 重なり響き合う
君を感じよう 届け・祈り・力
魂 寄り添えば 闇さえ払えよう
罪を焼く炎が
岩を裂き噴き出す
荒れ狂う風に舞い
なめつくす 過去・今・未来
乾き癒す雨さえ
行き過ぎて溢るる
果たすべき約束
片割れを求め 歌え
螺旋 翔け昇り 届け・言葉・想い
白く 輝きて 重なり響き合う