短い夢物語

□雨の雫で隠して
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小さな神社の祠に膝を抱え空を見上げると、大粒の雨が強く降っている。

『……何で……。』

ついさっきまで屯所で自分の仕事をこなしていた。土方に書類を渡すため部屋に訪れ……見てしまった…土方と雪村が抱き合う姿を。皆には隠していたが、土方とは恋仲だった…。しかし、そう思っていたのは自分だけだったのかもしれない。降り出した雨に打たれながら、屯所を飛び出して来てしまった。

『…もう戻れない…かな…』

夕餉の時間もとうに過ぎ、雨のせいで日が落ちたのかもわからない程暗くなった。いつもなら腰にある大小も、ない…不貞浪士に狙われれば、ひとたまりもなく死ぬだろう。それに来た事のない道を歩いたから、此処が何処かわからない。今頃屯所では私が逃亡した事になっているのだろう…。

『このまま、姿を消しても…』

いいよね、土方さん……最後の声は雨音に消えていき、私はまた当てもなく歩き出した。



「ルイ、ルイは何処だ!」

ルイが居ない事に最初に気付いたのは原田だった。夕餉の支度を一緒にする為に捜したが、一行に見つからない。いつもなら土方の部屋に居るのだが…いたのは雪村だった。

「おい、土方さん…ルイ見なかったか?」

「いや、見てねぇな…部屋にいねぇのか?確か書類を…「その書類って、これかな?」…何でてめぇがもってる、総司…」

「イヤだなぁ、ルイに渡されたんだよ?……土方さん。僕に言う前に、自分が何をしたかわかってる?…キミもだよ、千鶴ちゃん。…じゃ、僕はルイを捜しに行くから」

沖田が部屋を去り、言葉の意味を理解した原田も土方を睨み去って行った。
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