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□お前じゃないと、満たされない
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「おいさんたてれさ、腹減った」

『つい今さっき食べましたよね?まだ足りないって言うんですか』

「うるせぇ!!!!従属官のテメェが口答えすんじゃねぇぞ‼そんなに殺されてーのか⁈」

『す、すみません…‼すぐに持って来ます‼』


お前じゃないと、満たされない


(食べ過ぎだよね…どう考えても)

ノイトラ様は身体が他の十刃に比べて遥かにあるため、食いしん坊と言われるグリムジョー様の3倍ほどの量を胃に収めたばっかりだった。

(身長は関係無いかも知れないけど、ここ最近ほんと食べてばっかり…。え?カマキリって冬眠するの?その為に今蓄えてるとか?)

ドンッ

そんな失礼な事ばかり考えていたら、誰かに当たってしまった。

「さんたてれさ…、気を付けて歩いてね。これがノイトラ様だったらそのまま天に召されてたよ」

まあ、ノイトラ様はその前に避けるだろうけど、と付け加えて顔を歪ませているのは、私より格上のテスラ様だった。

(その前に、私たち一度死んでるよね?)
なんてツッコミを入れたら後が怖いので、その言葉を必死に飲み込み謝罪する。

『ごめんなさい!ノイトラ様がまたお腹が空いたって言ってて、何をお持ちしようか考えてたら、ぶつかってしまった次第でございます‼』

ノイトラ様の宮に使える給仕や従属官ならまたが付いてしまうくらい、日常茶飯事となってしまっていたのだ。

「あー、とりあえず適当な物で大丈夫だよ。さんたてれさが持って来てくれる物なら何でも嬉しいんじゃないかな。んじゃ、僕はこれからちょっと用事があるから」

急いでいたのか足早に去って行くテスラ様。

『ほんとすいませんでした!』

急ぎ足のテスラ様にそれだけを言うのが精一杯だった。
(もうあんなに遠い…)

その様子を静かに見ていた陰に、さんたてれさは気付く事は出来なかった。



「バァカ!遅ぇんだよ。どんだけ待たせりゃ気が済むんだよ。なぁ、さんたてれさ」

不機嫌に口をへの字にする主を見て、冷たい汗が背を流れた。

私は小さくすみませんとしか言えなかった。

「知ってるんだぜぇー?テメェとテスラが仲良い事」

先ほどとは打って変わって、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるノイトラ様。

私は何も言えずにいた。
…というより、たかだか給仕私に、そんな話は関係無いから。

「さんたてれさ」

黙っていた私にノイトラ様が話しかける。

何でしょうか、と短く返事する私。
こういう時、どうしてもっと可愛い返事が出来ないのだろうといつも後悔する。
慌ててるか、照れ隠しで冷たくしてしまう私をどうか許して…。

「俺は腹が減ってるんだよ。食っても食っても満たされねぇ。何でだろうな」

独り言のように、ノイトラ様が言った。
私はただ、黙って聞いていた。
ノイトラ様は自室に備え付けられたソファに長い手足を持て余すかのように気怠げに座っていて、眼帯で隠された側からでは、まるで表情が読めないまま、話を続けた。

「俺はよぉ、今までこの空腹はそこらの女で済ませてたんだよな。適当に。それが、さんたてれさが来てから出来なくなっちまった」

そう言えば、腹減ったと喚くようになったのは、私が来てから…だったらしい。
テスラ様が教えてくれた事をぼんやりと思い出しながら、ノイトラ様を見つめていた。

「テメェがただの従属官か、給仕だったら、今頃ベッドに押し付けて犯して、腹を満たしてるとこだった」

私は…、ただの従属官で、戦闘には向かないからって給仕しかしてないような破面なのに。

「それが、どうしてだかもっと知りたいと思っちまったんだ。笑えるだろ?」

ここで、やっと目線をこちらに向けたノイトラ様。
その目は、私の眼窩を抉るように捉えて離さなかった。

『だったら、私を食べて下さい。脂肪たっぷりで美味しくはないかも知れないですけれど、それでもノイトラ様が満たされるなら本望です!』

シーン

思い切って言ったのに、ノイトラ様は何も返してくれなかった。

(私って、そんなにまずそう?そんなにジロジロ見られても、脂肪が上質な肉の如く霜降り肉になるわけじゃないんだよ)

「違ぇよ」

心を読まれたかと、一瞬ドキっとした。
が、頭の足らないノイトラ様はそんな私の心情など知る由もなかったのだ。

「そう言う意味じゃなくてな、その、なんだ…」

珍しく言い淀む主に、私は目を見開いた。

「さんたてれさ、おれはきっと、お前みたいな女がいないとダメなんだよ。…要するに、テメェが好きだって事なんだよ!!!!そんぐらい察しろバカが‼」

捲し立てるように言うと、ふいとそっぽを向いてしまった。

(返事…しなきゃ)

私はその大胆極まりない告白に、ノイトラ様の座ってる後ろ姿を優しく、そっと抱きしめ、

「私も、ノイトラ様が大好きですよ」

そう耳元で囁くとあり得ないほど赤く染まる様が見えて面白かった。

いつもなら首をずっと上にしても合わない視線だけども、今なら座ってるからこそ合わせられる視線。

顔が紅潮したまま、こちらを振り向きざまに優しくキスをしたノイトラ様の鼻の下が伸び切った顔を、私は絶対に忘れまい。

(さんたてれさ、テメェが泣いても叫んでも、俺の元から絶対に離さねぇ)
(大丈夫ですよ。私、ノイトラ様以外まるで興味が無いですもん)


それから、ノイトラ様の腹減った現象は収まったようで、さんたてれさが腰を抑えつつノイトラ様に給仕をする姿が見られるようになったとか、なってないとか。

(ノイトラ様の恋路が上手くいってよかった。さんたてれさは気付かなかったけど、あの時のノイトラ様はいつ鎌が飛んで来てもおかしくなかった)

一人の従属官の命が、救われた瞬間でもあった。

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