小説

□Love Live!2話
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生徒会の活動がうまくいっていないのは口に出さなくてもわかった。
隣の家の生徒会長さまが、最近いつも何か考え込んでいる様子なのだ。
何か進展があれば自分から話すだろうが、今はまだそんな気配もない。
他校の生徒会活動に口を出すわけにもいかないけれど、もう少し頼ってもらいたいのが正直なところ。
えりちかが何も言ってくれないとなると、他の誰かに現状を確認する必要がある。
仕方がない。お参りついでに会いにいこう。



「――珍しく会いに来たと思ったら、ウチはついでなんか」



放課後。自転車を走らせて向かった先は神田神社。
たった今不満げな声を出した、音ノ木坂生徒会副会長に会いに来たのだ。
この神社の手伝いをしているという東條 希は巫女姿で掃き掃除をしている。
スピリチュアルな場所だからとかなんとかで神社にいるらしいが、最近の女子高生の考えることはよくわからん。
希とはえりちかを通して知り合い、ちょくちょく顔を会わせているため、名前で呼び合う程度には仲が良い。
そして希は「えりちかは宇宙一可愛い!」というしょうもない話に付き合ってくれる数少ない人物でもある。
半ば適当に流されてはいるが、学校でのえりちかの様子やらネタやらを提供してくれるのだ。
今日はえりちかをからかうためのネタではなく、生徒会活動の様子を聞きに来た。
しかし聞いてみると、実状は予想通り芳しくないようだった。
とりあえず今は目前の新入生歓迎会の仕事を頑張っているとか。
生徒会とは無縁な私には何をするのかはさっぱりわからないが、行事となると生徒会は大変らしい。



「そや。お参りしたら坂の方の階段見てみ。おもしろいもんが見られるで」



困ったときの神頼み。自分に都合の良いときだけ信仰する神様へのお願い。
単なる気持ちの問題ではあるのだが、しないよりはした方がいいような気がして。
希に見送られながら階段を上る。それにしても神社でおもしろいもの、ってなんなんだ。
杖を持った白猫とか、永遠の17歳な声をした女神とか、まさかの新世界の神とか。
全部が揃い踏みしている状態を想像したらとんでもない状況だった。さすがにそれはない。

二拝二拍手一拝で正しかっただろうか。
少々自信がなかったがお賽銭を奮発したので間違っていても許してほしいところだ。
初詣以外では滅多に来ることのない神社だが、やはり雰囲気がある。静かで悪くない。



「ほら!遅れていますよ!あと二往復です!」



前言撤回。全然静かじゃなかった。
運動部の練習中のような声が聞こえ、声の主を探すとすぐに見つかった。
希の言っていた階段の方に体操着姿の黒髪の女の子が立っていたのだ。
小豆色ジャージに白Tシャツとはこれはまた典型的な。下だけが長いジャージというのがダサさを助長している。
希の指すおもしろいものというのは彼女のことなのだろうか。
おもしろいというか普通にただの可愛い子にしか見えないんだけど。
体操着の子は階段下にいる誰かに声をかけている。それは運動部の練習風景にしか見えない。実際階段ダッシュをやっているようだし。
後ろから様子を眺めていると階段下から女の子たちが走って来た。
茶髪のショートカットの子と、なんだか見覚えのあるとさか。



「あれな、音ノ木坂のスクールアイドルなんやて」


「うわッ!希、いつの間に……」


「μ'sっていうグループなんや」


「え。MUSE?」


「そうそう、PVもパラパラ漫画で――ってちゃうわ。石鹸でもないで」



音もなく隣に立っていた希が解説をしてくれた。
そういえばスクールアイドルやろうとしてる子がいるって言ってたっけ。
アイドルってもっと歌やダンスの練習をするものだと思ってたんだけど。
神社で走り込みとなると練習というよりも特訓といった方が正しい気がしてくる。
タイヤを引っ張っての走り込み、さらにはうさぎ跳。少年漫画的な特訓の絵図が頭に浮かんだ。流石にそこまではやらないだろうが。

希と二人で特訓風景を眺めていると、階段ダッシュを二往復終えたところで女の子たちは地面に尻餅をついていた。
先ほどから駆け出しのスクールアイドルたちの中に見覚えのあるとさかがあることが気になっていた。
走っていようがへばっていようが崩れない特徴的な髪型。あれって、やっぱり……。

じっと見つめていると、背中に目でもあるのかとさかの持ち主はくるりと顔をこちらに向けた。
振り向いた女の子は予想通りの子だった。何度も顔を合わせているのだ、見間違いということはない。
ことりちゃんは目が飛び出るんじゃないかと心配になるほど目を見開いて、私を凝視している。




「愁さんっ!」




ことりちゃんが私の名前を呼んだところで、他の二人もこちらに顔を向けた。
スクールアイドルをやろうと考えるだけあってそれなりに可愛い子たちだ。
突然のことだったため差し入れはないが、挨拶くらいはしておこう。ことりちゃんに応えるように軽く右手を振った。










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