お話

□君を丸ごと愛してみせよう
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奇跡の世代、黄瀬涼太。


類い希なるバスケの才能。

モデルとしての活躍を期待される、それはそれは優れた容姿。


彼の周りには、いつでも沢山の人がいる。
まるで、光に集まる羽虫のように。

人を引きつけてやまないのだ。




それほど、人を引きつけておきながら彼は他人を受け入れる事はなかった。


「あんまり、関わらない方がいいっスよ。なまえっちのためにも。」

いつだって笑顔で警告するのを欠かさない。


私は、黄瀬涼太という存在の中に踏み込んでみたくなった。


近づくな、と言うのがまるで誰かに救いを求めているかのように思えたのだ。


いや、思い上がっていただけかもしれない。


私も、光に集められた羽虫の一匹に過ぎないのかどうなのか知りたかったかもしれない。


どっちにしても、黄瀬君が隠してる何かを暴いてみたくなった。


もし、手酷く拒絶されたとしても後悔はない。
















だしぬけに腕を掴まれ床に押し倒された。
視界を埋める鮮やかな金色。
見下ろす瞳は獰猛な肉食動物のようで普段の取り繕った黄瀬涼太は微塵も感じられない。



「ちゃんと、警告…したっスよ。なまえがわるいんスからね。」

薄く笑った口元には、普通の人間にはない鋭い牙が見えていた。


私のシャツの襟を引っ張って首筋に口をつけた。


生暖かい舌の感覚を何度か感じたが、ブツリと皮膚を食い破る音がして、鋭い痛みが走った。


「っいっ…。」
今まで声は押さえていたけど、反射で出た声を押さえることが出来なかった。



じゅ…と血を吸う音だろうか想像以上に生々しく痛々しい音が聞こえてきた。


首の痛みをぼんやりと感じながら、あぁ血を吸われているのか…私も吸血鬼になるのだろうか。

などと、思考は恐ろしく冷静だった。



『なまえ。ねぇ?どんな気分スか?』

「さぁ…?血なんて美味しいの?」

『は?』

我ながら随分間の抜けた質問だったと思う。すっかり毒気の抜かれたキョトンとした顔で私を見下ろしている。


『そんなこと聞かれるとは…思わなかったっス。』

じゃあ、味見してみたらいいっス。


そう言って顎をぐっと掴み、強引に唇を重ねた。
唇が重なった途端にぬるりと、して鉄の味が広がった。


あまり気持ちのいいものじゃない。顔を背けようとするが、舌を差し込まれて口の中は更に血の味で満たされた。


きっと口の周りも凄い事になっているはずだ。


「もう…いいっ。たくさん…。」

『そうっスか。』


彼は案外あっさりと唇を話した。


『で…。感想は?』

「あんまりというか全然美味しくない。鉄の味。」

『そりゃ、美味しいと感じたらあんたは俺の仲間っていう事。』


さっきまでの張り詰めた雰囲気はどこへ行ったのか。可笑しい位に緊張感が無くなっていた。


身体を起こすといつもより、血液が大幅に足りないせいかクラクラとして気持ちが悪かった。


しょうがないので起きるのを断念し、再び床の上に転がった。





『…ごめんなさいっス。』

何とも弱々しい、謝罪の言葉が聞こえた。
目線をそちらへやると、しょんぼりとした黄瀬涼太がいた。



『たまに乾いて乾いてどうしようも無く血が飲みたい時があるんスよ。それが、たまたま今だった。』

転がったままの私の若干乱れたシャツの襟をそっと戻しながら言った。





瞬間、私は何をしてしまったのか悟った。
黄瀬涼太は自分の性質を理解し、人を傷つけまいとしていたのに私は不用意に彼に近づき、それを崩してしまった。


なんと、愚かな事をしたのだろう。

深く考えもせず近づいた私は馬鹿だ。



「いや、悪いのは私だよ。ごめんね、黄瀬くん…。」


『なんで、なまえが謝るんスか?泣くほど怖かったのに。』


彼の言葉をうけて、初めて泣いている事を認識した。


ああ、そうか、


所詮、私も黄瀬涼太の事が好きで近よっただけの馬鹿な女なのだ。

ただ何を隠そうとしていれのか知りたかったのだ。


ひとえに彼への恋心故に。


ただ一言、好きだと言えば良かったのだ。



黙り込んだまま泣く私を見て不審に思ったのか、私の顔を覗き込んた彼に

「好きだよ。」

いきなりだったかもしれないが、腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめて言った。


「ただ、黄瀬くんの事が好きだったんだよ。私は、他の子達とは違うみたいな顔してたけど、違うの。」

「何も変わらない。その挙げ句に傷付けるような事してごめん。」

「黄瀬の事、知りたかった…だけなんだ。」

脈絡のない、想いを次々と吐き出していくような言葉だったけど黄瀬涼太は黙って聞いていた。


軽蔑されても、かまわない。





ぽつりと黄瀬が言った。



『俺は…泣きながらごめんなさいって言われて、好きだって言われた事なんか初めてっスよ。』


『好きだって、俺の事を知りたいって言って貰ったのなんて…。』









抱きしめられたままだったが、黄瀬涼太はなまえの背中に手をまわし





でも、悪い気分じゃないっスね…。

と静かに呟いた。


















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いつか書こうと思っていた。吸血鬼パロ。
たまにはこういうのも良いですね。
すらすらと書けたのでクオリティにはちょっと自信がありませんが。

獣っぽい黄瀬が楽しかったので満足です。

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