お話

□あなたの癒やしになれますように
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私はみょうじなまえ。
私は屋上で、大輝に後ろから抱きしめられる形で座っている。

「あったけぇ…」

大輝が呟いた。



「うん。」


私は帝光中学校でバスケ部のマネージャーをつとめていた。

かれのバスケをする姿に惹かれたのだ。

彼をどんどん好きになっていった。

私は彼に想いを告げる事を決めた。

想いは実り、現在青峰大輝の彼女となった。



「大輝?今日も部活行かないの?」


「行かねーよ。練習するよりお前と居た方がいいもん。」



そういって軽く私の耳を噛んだ。
くすぐったいよ、と大輝をあしらいながら、思う。



こうやって過ごすようになったのはいつからだったか。


昔は部活をサボる事は無かった。
それこそバスケをする為に学校に行くような、バスケバカだった。


さつきとため息をついた事をよく覚えている。


しかし、大輝のバスケは驚異的に進化し彼についていける者はいなくなった。



その頃からだ、あれ程大好きだったバスケへの熱を失い部活へ顔を出すことは減った。



代わりに放課後になると必ず私をさらうかのようにして、自分の元に連れてくるようになった。


同じく桐皇に進学した現在でも変わっていない。
私自身も大輝とこうやって過ごす事を嫌だとは思っていない。
(バスケ部の皆には申し訳ない。)

心地良いとさえ感じているのだから…。



でも、バスケを楽しそうにしている大輝の方が好き。

彼にはバスケを嫌いになってほしくない。


だって昔の大輝は見ているこっちまで、嬉しくなるような笑顔でバスケをしていたんだから。


「俺に勝てるのは俺だけだ」、
と言うのを聞くのはとても辛い。
半身を引き裂かれたように。




ポタポタ…。何だろ…視界が霞むよ。



「何?なまえ、お前泣いてんの?」

お腹の辺りに回されていた大輝の右手が私の頬に触れる。


ああ、私泣いてたのかと気付く。


何かを悟ったのだろう。

大輝の私を抱きしめる腕の力が増した。

本当はとても優しいんだから…。


余計に切なくなる。

大輝は少し疲れてしまったんだ。

大好きなバスケを思う存分に出来ないことに。
私はいつか彼よりもずっと強い人が現れるのを願う。

その時、大輝はきっと心からのバスケをする事が出来るでしょう?


私は大輝のYシャツの襟を軽く引っ張って頬にキスをした。


そしてそのまま大輝の耳元で囁いた。



「いつか、大輝より強い人が現れるよ。絶対に。」




大輝は驚いたような、切ないような顔を一瞬だけ見せて。



私の額にキスを落とした。




私は君の傍に居続ける。




抱き締められた腕の中で、私は誓う。


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