お話

□僕の理性が喘ぐ
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大好きだった彼氏に振られました。

本当に急だった

いきなり呼び出されて、
『好きな子が出来たから別れて欲しい』
そう告げられた。


よくある漫画みたいな展開がまさかリアルで降りかかろうとは…。



それから後はあまり覚えていない。


その日は部活を休んで、帰った。

何だかそのまま家に居てもどうして良いかわからないので、取りあえず、通学路の近くの公園へいた。


ここは、緑が多く落ち着く場所だ。


ベンチに座って、山の向こうに落ちていく夕日を眺めていた。

夕焼けというのは、なかなか胸に迫るものがある。


傷ついたとか、恨むとかそんなドロドロとした感情は無いけれど悲しかった。


いつから、変わっていたのか。
彼の気持ちは。

泣くまいと決めていたのに、私の涙は止まらなかった。











今日は部活がオフだった。幸運にも仕事も入っていなかった。
放課後は正真正銘のオフだ。


それでも日課のランニングをしていた。
(いきなり休みでも、する事ないんスよねぇ…)



いつものコースを走り、時間のある今日は少し違う場所へ行ってみようと思い、公園まで足をのばした。


夕暮れ時で、昼間の暑さも収まりつつある公園は思ったより心地よかった。



すると、ベンチに見覚えのある制服の少女が座っているのが見えた。


(あれは…。)

クラスメートのみょうじなまえ。

なかなか話やすい女子である。
飾らない性格でとでもサバサバとしているから。


そして俺、黄瀬涼太が密かに想いを寄せている相手だったりする。



彼女は一人でベンチに座り、顔を両手で覆ったまま俯いていた。

何時もニコニコとしている彼女からは想像もつかない姿だった。

確かに今日は、元気が無いように思ったのだがやはり何かあったらしい。




『なまえっち!どうしたんスか?』


はっと顔を上げた彼女にはやっぱり涙の跡が幾筋も残っていた。

「黄瀬…くん……!」


泣き顔を見られている事に気付いたのか、涙で濡れている目元をゴシゴシと擦る。


『ああ!擦ったら赤くなっちゃうっス!待ってっス!』


俺は持っていたスポーツタオルをポンポンと彼女の目元にあてて、涙を取り去った。

『何かあったんスね…。俺でよければ聞くっスよ?』



ふっと口元をゆるめ彼女は笑ったけど、また瞳にはジワリと涙が溢れたのが見えた。


それから何度も途中でつっかえながらも彼女が話すのを聞いていた。



付き合っていた彼氏に振られてしまったこと、いつから嫌われてしまったのか分からない、と。


ぽつりぽつりと話していく。


その度ポロポロと涙を流していく。



俺は堪らなく羨ましくなった。
これ程までに彼女に想ってもらえるなんて。


こんなに想ってくれる子がいるのに、捨ててしまうなんて。

馬鹿だ。馬鹿だとしか言えない。

数知れない赤点を青峰っちと叩き出している俺でも分かる。



あぁ、俺なら絶対こんなに泣かせないのに、うるさいって言われるくらい愛してあげるのに。



それで、彼女が笑ってくれたらどんなに幸せだろう。


弱ってる所につけ込むみたいで反則だろうか?


でも、今日は偶然オフでいつもは来ない公園に偶然立ち寄って、偶然ベンチで泣いてる彼女を見つけた。


こんなにも偶然が重なることがあるだろうか。


都合の良い解釈かもしれないけど、神様が俺にくれたチャンスかも、とすら思ってしまう。



こんなチャンス絶対に逃したりしない。


涙を流し続けるなまえに手を伸ばして、抱きしめた。


彼女の体がビクッと強張ったけど腕を外さなかった。


『そんなに泣くなら、俺のものになってよ。俺…なまえが好きっすよ。」
「なまえが大好きっす。元カレが忘れられなくってもいい、利用してくれたって構わない。』


一息で言い切った。
なまえが何か言う隙は与えなかった。


なまえが口を開くまで恐ろしい程長く感じた。実際はほんの十数秒だっただろうが。


「…黄瀬くんは…そんなんで良いの?私…悪くて…。」


紡がれる拒絶の言葉とは裏腹になまえは黄瀬の胸にぴたりと額をつけた。


『いいんすよ。俺は、なまえっちが好き。なまえは誰かにいてほしい。』


丁度いいじゃないすか。
そう言って、またぎゅっと抱きしめた。

『それじゃ納得出来ないって顔してるっスね。』


『じゃあ、言い方を変えるっす。なまえっちにはカレシに振られた日だけど、俺にとっては大好きな子が手に入るチャンスの日なんす。』

『さっきはあんな言い方したけど、俺の為に傍にいてほしい。お願い。それに、絶対俺に惚れさせてやるっす。』


さっきと同じように、一息に言い切った。
でも今度は違かった。




黄瀬の腕の中で泣きながら、なまえはこくんと頷いた。




















*******************棚ぼたな黄瀬くん。
なんか長編ものの第一話!みたいな感じになりました。

続くかもしれ…な…い……?

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