散弾銃

□02
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「ゲホッ……グッ……ッ……」


俯いたなまえは、掠れた声で咳き込んでいた。
青ざめた顔で肩を大きく上下させ、喉をヒューヒュー鳴らしている。猿ぐつわの所為で、酷く苦しそうだ。煙が散った頃に、皆はなまえの両手は前で拘束されていることに気付いた。


「じゃあ早速自己紹介は?」


そう言ってモノクマは、なまえにマイクを近づけた。なまえは咳き込みながら、蒼ざめた顔で睨んだ。


「あそっか!口塞がれてちゃ喋れないね。しょうがないなぁ、じゃあ代わりに、優しい優しいモノクマ先生が説明してあげましょう」


モノクマはなまえの首根っこを掴むと、無理矢理顔を上げさせた。


「皆、この顔に見覚えはない?」


青白い肌に、中性的な顔立ち。
分けていた前髪が、ハラリと顔にかかった。
繊細で整った顔は今や、苦痛で目も真面に開けない程歪んでいる。
その瞬間、皆が何かを閃いたように小さく顔を上げた。


「あっ……!」
「テ、テレビで見た……」
「あいつって……」
「みょうじ……なまえ……?」


おずおずと答えた声に、モノクマは愉快そうに声を上げた。


「大〜正〜解〜ッ!正直これ以上長引くと面倒なので、ざっと説明するね。転校生の正体は、なんと!世界中で活躍するあの有名な、超高校級の手品師!みょうじ・なまえクンなのでしたぁ〜!」


モノクマの言葉に、十神の瞳が微かに揺れた。

その眼鏡の奥の変化は、凝視でもしない限り誰にも気づかれない程小さなものだった。


「いくら水中に沈めてもナイフで刺されても体をバラバラにされても、最後には涼しい顔で生き返るみょうじクン!良いね〜、不死身の体を持つ魔法使いなんて、夢に溢れてるよね〜!どう?そんな彼が棺から登場なんて、中々の演出でしょう?」


悪趣味だ、と大和田が舌打ちをした。


「あれれ、不評っ?まあいいや。」


モノクマは、なまえの後ろへ回ると、猿ぐつわを外した。しかしなまえは、少しも声を発する様子はなく、空気を肺一杯に送り込んでは吐くばかりだった。それ程までに、余裕が無かったのだ。

モノクマは仕切り直す様に大袈裟な咳をした。
そのワザとらしい仕草に、なまえはモノクマを睨む。その瞳の奥に、煮えたぎる様な憎悪が燈って―――














―――く、た、ば、れ。









唇は確かに、そう動いた。


「えぇー、みょうじクンは転校初日に遅刻するというあるまじき行為を取った事に加え、ホニャララの都合により“転校生”となったのでした。まあ大半はホニャララの都合なんだけどね。しかし遅刻は遅刻、丸一日、ちょっとしたオシオキをしたのだけれど……ちょっとやり過ぎたかなぁ?」


モノクマは顎に手を当てて、ポツリとそう付け足した。そして頭を左右に傾けながら、暫く考えるような仕草をした後、「よし!」と閃いたように両手を叩いた。


「そのお詫びとして、みょうじクンにはお願い事を一つだけ叶えてあげましょう!」


その言葉に、なまえの咳が止まった。


「―――でも、勿論“ここから出して”というお願いは聞き入れられないよ?」


なまえは一瞬だけ眉を顰めた。





―――何の話だ……?





なまえは入学式に出席していないため、何が何だかわからないのだ。そこで初めて、まじまじとモノクマを眺めた。


白と黒の熊。片面は可愛らしい容姿だが、もう片方は不気味だ。
ぬいぐるみか……?否、それにしては―――まるで、生きているかのようだ。


「さあどうする?一生ケーキ食べ放題?綺麗な洋服で着飾ったり?うぷぷ……それとも現金?お金なんて、ここでは意味がないけどね!!」


モノクマは次々と容姿を変えては、大きく笑っている。


「“この中”で叶えられることなら、何でも叶えてあげるよ!僕って寛大だから!」


なまえはまだ、頭がぼんやりとしていた。
意識がはっきりと覚醒しないまま、辺りを見渡す。



―――何だ、
何が起こっている……?



広々とした体育館に13、14……15人の生徒。
皆僕を見詰めている。
表情の程度はまちまちだが―――ほぼ全員が、緊張した面持ちだ。それも、異様な程に。


なまえは厭という程、自分の鼓動を感じる。冷や汗が、頬を伝った。




“何でも一つ、願い事を叶える”




きっと、こんな機会は二度とない筈だ。
だとしたら……
だとしたら、何が最善だ?
そもそもこの状況は、一体何だ。
転校――と言うには余りに粗く、非常識だ。
それに皆の反応も、余りに緊迫しすぎている。
しかし、転校は転校なのだろう。
つまりここは、学校……?
―――クソッ、頭が……

異常な状態。その中での最善。


一体何が、






「あれれ?まだ迷ってんの?あんまり遅いと、この話は無しにしちゃうよ?」


その声に、なまえはハッとしたように目を見開いた。
息を吸い込めば再び吐き気がした。それでも不思議と、気にならなかった。


「僕の、願い―――」


なまえはゴクリと、唾を飲み込む。
空気が張る。


「―――それは、」


汗が頬を伝い、やがて地面で小さく跳ねた。
















「この学校にある、未開放地を―――無条件で開放することだ。」


















       
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