散弾銃
□02
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「そうか……なまえ君は、入学式に居なかったな……。」
「入学式、が、あったのか……?」
石丸は入学式の光景をありありと思い出しながら、重く頷いた。
その視線は下がったまま、
膝に握る己の拳を見詰めている。
重苦しく落ちたその視線は上がる気配は無い。
「なまえ君が、今日、転校してくる前日に―――入学式は、行われた。」
石丸は吶吶と、そう言った。
表情は曇り、険しく眉根が寄せられさえしている。
―――それだけ、重く苦しい入学式だったのだ。
なまえはその表情を見据えたまま、僅かに瞼を伏せた。
そして再び、目を開く。
「そこでは、この学園生活の説明が?」
「ああ。――責任を持って、僕が説明しよう。」
石丸は、短く肺一杯に空気を吸って姿勢を正した。
「僕たちは全員、この希望ヶ峰学園へ足を踏み入れた途端、気を失ったんだ。そして――目を覚ませば、この学園内に居た。」
なまえは不可解といった表情をした。
しかし黙って、耳を傾ける。
「目が覚めた時、気付けば僕の側に入学案内書が落ちていた。」
石丸はすぐ隣にある机の引き出しから紙を取り出だした。そしてなまえに手渡す。なまえはそこに『入学案内』の文字を確認すると、肩眉を歪め石丸を見上げた。
「これが……?」
「ああ、そうだ。」
唖然として尋ねると、毅然として返された。
なまえはもう一度、訝しげな様子でその紙を見た。
―――この男は、こんな幼稚な入学案内を見て疑問に思わなかったのか?
「捨てれば良かったのに、こんなもの。」
「なっ……!そうはいかない!入学案内は卒業するまで大切に取っておくべきだぞ!」
―――この男は、こんな幼稚な入学案内を見て疑問に思わなかったらしい。
何この不思議な真面目さと奇妙な適応力、と
なまえは心の片隅でそう思った。
「例えばこういう不測の事態の時、現に役に立っているではないか。」
「あー……」
「いくら過ぎたこととは言え、少なくとも在学中は全ての資料を取っておくべきだ。」
「あーそーd―――」
「それに自分の為にも役に立つんだぞ!例えば初心に―――」
「……」
次の瞬間、なまえの瞳が鋭く光を反射する。
刹那、なまえは素早い動作で叩きつける様に枕を手渡した。石丸の膝に。
「!?……??」
石丸は突然の事にやや仰け反っており、頬に若干の冷や汗まで流していた。
疑問まみれの顔でなまえを見る。その表情は、先程の情熱的な熱意など何処にも兼ね備えておらず、ひたすら困惑していた。
「―――あげるよ、それ。」
なまえはあくまで、入学案内書に目を落としたままだ。その表情はどこもふざけて等おらず、むしろ真面目なものだった。
「あ……ああ……ありが、とう……」
石丸は目を丸くしたまま、冷や汗まで流しぎこちなく受け取る。それでも律儀に礼は忘れない。
“こいつは、不測の事態に弱そうだ。”
なまえはそう予測したからこそ、この様な手段を選んだのだが……その発想といい選択といい、石丸にとやかく言えないようにも思う。
なまえはパンフレットを
石丸は枕を
そっと見下ろしたまま、思った。
「「(この男と居ると……ふとした拍子に調子が崩れる。)」」
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あくまでシリアス顔のまま。