散弾銃

□02
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「ありがとう、石丸……」


礼を言いながら、冷たく絞ったタオルを受け取るなまえに、石丸は首を左右に振った。


「困った人が居たなら手を差し伸べるまでだ。」


その真っ直ぐな瞳に軽い微笑を返して、なまえはタオルを見詰めた。水気が殆ど無くなるほどに、固く念入りに絞られている。


「先程の無礼、許してね」


タオルを見詰めたまま、なまえはそう言った。
謝罪の意味も込めている筈ではあるが、どこか悪戯っぽい口調だ。

先程の無礼、と石丸は記憶を辿る。そして

“驚く程、華奢だ―――”

そう口にした瞬間、なまえが鋭い声を出した事を思い出した。

“―――失礼だぞ、お前”

その言葉は重く、今思い返せば敵意さえ含んでいたように思う。出来れば二度と聞きたくないと石丸は思った。


「あれは……僕の方こそ、気に障る事を言って悪かった。」
「そうだよね、失礼だよね」
「っ!だから、悪かったと……」


石丸の眉が下がる。
なまえは何も答えない。
石丸は動揺して、なまえを見下ろす。そして、気付いた。

なまえは密かに微笑を浮かべている。

石丸は「何て奴だ」とでも言いたげに、困った様なまたは呆れた様なため息を吐く。


「石丸―――僕はね、」


俯いたまま、ポツリと零したなまえ。
丁度移動しようとした石丸は、氷水の入った洗面器を持ったまま、振り返る。


「人前で、自分の弱った姿を見せるなんて」


なまえはゆっくりと、顔を上げた。


「大ッ嫌いなんだ。」


瞳を半円にし、ゆっくりと口角を歪め笑ったその表情は実に不気味で、その癖どこか妖艶でさえあった。そして、ふざけきっているようにも見える。

石丸は不思議とその笑みから目が離せなかった。
先程から翻弄されているばかり、そろそろ突き放してしまえばいいものの―――それが出来ないでいた。

なまえは喉の奥で少し笑うと、目と額を覆う様にタオルを被せさっさとベッドに横たわった。







「―――あんな屈辱、耐えがたいからね。」







石丸は思わず、なまえの表情を見下ろした。
しかしその顔は、タオルに隠れて見えなかった。



































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なまえ君は何と言うか……
たまに”悪い子”です。

それに対し石丸は“良い人”なので、
結果翻弄されっぱなしの役回りに(笑)




というかもう
振り回される石丸君万歳!!!

     

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