散弾銃
□03
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石丸はしばらくなまえを見下ろしていたが、やがてせっせと洗面器の水を代えに行った。代え終えたところで再びなまえの元へ行き、洗面器を机へ置いた。
気が利く事に予備のタオルも絞り終えた所で、口を開く。
「なまえ君」
なまえが額からタオルをずらし片目で見上げれば、石丸は再び姿勢よく椅子に座っていた。そしてじっと、なまえを見下ろしている。
「君は“弱った姿を見られる事が嫌いだ”と言ったな。」
なまえは少し、諦めた様にため息を吐いた。そして苦笑する。
「“そんな事を言っている場合ではない”、って?」
「いいや、そうではないぞ。」
案外きっぱり言った石丸に、なまえは目を丸くし瞬いた。
てっきり「その通りだ!」と催促されるのだと思っていたからだ。
「僕は“ゆっくり休みたまえ”と言おうとしたのだ。自己紹介等は完全かつ完璧に復活した後にしよう。」
「―――!」
なまえは目だけでなく、口までもポカンとしている。
「で、も……」
「だって“大嫌い”なのだろう?」
石丸はごく当たり前のことを口にするかのように、あっけなくそう言った。小首を傾げ、キョトンとしている。
なまえは唖然として石丸を見ていていた。
やがて額を押さえると、長いため息を吐きながら項垂れた。
「良い人過ぎるだろ……」
「?」
まさに清廉潔白。
なまえはため息のように呟くと、再び顔を上げた。
「精々、悪い女に捕まらないようにしなよ」
「な……悪、い……?」
「ああ」
なまえは自分の胸に手を当てて、ふ、と微笑みながら石丸を見上げた。
「例えば、僕みたいな女さ」
柔らかい瞳で見上げるなまえ。
フワリとした微笑と、目が合う。
「―――……」
風に背中を、撫でられた気がした。
石丸は不思議と動けずに、その淡い瞳から目が離せないでいた。
なまえの形の良い唇が、小さく弧を描いたまま崩れない。
まさに“眉目秀麗”という表現の見合う整った容姿の所為か―――どこか、哀愁の香りがした。
「何を、言っているのだ?」
石丸はパチリと、瞬きをする。
「君は男だろう?」
なまえは何も言わず、じっと微笑んだまま。
石丸を見上げ、見詰めたまま。
石丸がたじろぎかけた時―――
「―――ぷ、」
その表情が、崩れた。
大きく歪んだ眉や口元に、石丸は魔法が解けるかのようにハッとした。
――単に、視線がそらされた為に緊張が解けたのかもしれない。
なまえは口許に手を添え
クツクツと喉を鳴らした後―――
「ふふ―――ははははっ」
声を出して、笑った。
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なまえ君の中では
ちゃんと繋がっているのだろうけれど、
傍から見たらただの怪しい人ですね。
どうでもいい話
石丸君に「大っ嫌い」と、
言わせたかったのだッ……!
(※前半参考)