散弾銃

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「よし!全員集まっているな。」



いつの間にかあらかじめ全員を招集していた石丸は、食堂へ入るなりキビキビとした動きで自分の席へ向かった。

その後ろに続いたなまえは体調の方は回復しているものの、若干億劫そうにその後ろ姿を見ていた。……ここへ来る前に、挨拶をする際の心構えやら注意やらを散々叩きこまれたのだ。

しかしなまえの様子を見る限り、とても真摯に受け止めているとは言い難い印象を受ける。

石丸は自分の隣の席の椅子を引く。



「なまえ君はここへ座りたまえ。」



石丸は自分の席の隣の椅子を、まるで当然の如く引いた。

余りに自然すぎる仕草だった為「あっ、隣なんですね。」となまえは大人しく座る。


「今から転校生のなまえ君へ、それぞれ自己紹介をして欲しい」
「堅苦し過ぎんだろお前」


大和田は頭の後ろで腕を組んだまま、若干の呆れ顔で石丸へ野次を飛ばす。次に石丸が口を開いたとき、口論が始まった。




***





苗木は、隣の席へ座るなまえを見ていた。



サラリと髪を靡かせ、椅子へ深く腰掛ける姿。

長い足を優雅に流し、肘へ添える様に腕を組む仕草。

伏せた瞳を縁取る、緩やかな曲線を描いた長い睫。

スと通った、鼻筋。


自分は容姿も平々凡々であるとしている苗木にとって、
なまえの容姿や仕草は―――



「……」



つい、見惚れる程のものだった。

ぼんやりと眺めている苗木に、なまえは視線を向けた。
そして顔を向けると、ヒラヒラと苗木の眼前で手を振ってみる。苗木は黒い手袋の隙間から、それでもぼんやりと眺めていたが、


「あっ、えっと―――!」


やっと、気付いた。
慌てた苗木を、なまえは若干不思議そうに見た後、再び前を向いた。苗木は誤魔化す様な苦笑を止め、もう一度、横目でこっそりとなまえを見る。




甘いような、涼しいようなマスク。


大人っぽい容姿かと思えば、幼いようにも見える。


不思議な容姿。


可憐な顔立ちであるのに、頼もしい印象も受ける。


優雅で、品のある、まるで









「なまえ君って―――女の子みたい。」






ぼんやりとした口調に、なまえは目を伏せた。



そして次の瞬間



























「―――殴るぞ。」

























鋭い双眼が、横目で苗木を捕えていた。



暖かさも、冗談も、何も含んでいない。



ただ鋭く、冷たいだけの視線。










苗木は冷や水でも浴びせられたかのように、身を凍らせた。


「ご……ごめん」


蒼ざめ大量の冷や汗を流しながら謝る苗木。なまえは―――二コリと笑った。

その真意はハッキリと示されなかったものの……苗木にとっては、安心感を覚える笑みだった。


「あーもう!さっさと自己紹介始めるんじゃないの!?」


大和田と石丸の口論に、痺れを切らした朝比奈は机をバンバンと叩いた。いつの間にか席を立つまでに発展していた二人は、その声に振り返る。


「そーだぞー外でやれよイインチョー」


棒読み気味の桑田が、だらしなく頬杖を突きながら唇を尖らせる。

なまえは静かに目を伏せたまま、「頼りになるんだかならないんだか、」という感想を石丸に持った。

そして不意に前を向いた瞬間―――なまえは目を、見開いた。






「き、君はっ……」





真っ直ぐに見つめたかと思うと、徐々に表情が綻んで行く。




















「舞園さやかっ!君っ!」














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まさかの舞園さん。
桑田の「イインチョ」呼びが地味に好きです。


    

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