散弾銃

□02
1ページ/1ページ




「舞園さやかっ!君っ!」




突然舞園の名を呼んだなまえへ、全員が振り返った。

なまえは高揚感に目を輝かせ、自然と口角を上げている。

先程の涼しげで落ち着いた仕草からは想像できない、意外な表情。

誰もがそう感じながら、なまえを見ていた。


「――あぁ、ごめん。つい」


我に返ったなまえは苦笑した後、改めて舞園を見た。


「僕、君の事が好きなんだ。とてもファンとは言い難いけれど―――ずっと応援しているよ。」
「えっ―――?」


興奮した様子も媚びる様子も無く、ただ真っ直ぐな言葉。
舞園は思わず、頬を紅潮させる。

そんな二人に桑田は、椅子から転げ落ちそうな勢いで組んでいた手足を戻した。そして慌てた様子で二人を見ると、焦燥とも怒りとも取れる顔でなまえを指差した。


「てっ、テメッ!何口説こうとしてるんだよッ!!」


がるる、とでも聞こえてきそうな敵対心に、なまえは目を丸くする。そして肩を竦めながら「不正はありません」と言った具合に両手を広げる。


「別に口説いていないじゃないか。」
「あっ、あーッ!そうやってしらばっくれるー!ふざけてんじゃねーぞ!!」
「心外だなあ。」


痺れを切らした石丸が、ガタンと立ち上がった。


「静粛に!止めないか二人共ッ」


桑田は眉根を寄せながら、なまえはあくまで澄ました仕草で、石丸を見上げる。


「大体っ、口説くの口説かないのって、そのっ、」


石丸は口角が引き攣っていた。
赤くなりながら青くなり、さらには冷や汗まで流している。


「ふ、不純ではないかッ!!」
「問題はそこじゃないでしょ!つーか、早く自己紹介始めようよ」


顔を赤くしながら桑田となまえを指差す石丸を、江ノ島は容易く一蹴した。


「うむ……そうだな。口論は後で好きなだけすればいい……」
「って事で!誰からやんの?」


髪をクルクルと指で弄ぶ江ノ島の前で、朝比奈が元気よく手を上げた。


「はいはーいっ!私から始めるからねっ!」
「ちょ、待ちたま――」
「どうもっス!朝比奈葵っス!えっと、超高校級のスイマーって呼ばれててー……そんな事より大好物はドーナツ!何と言ってもドーナツが―――」


勝手に自己紹介を始める朝比奈に、石丸は強引に丸め込まれてしまった。席に着く石丸が、なまえには少ししょんぼりしているように見えた。








***







「あー……」

なまえは食堂に集まっている、全員の顔をグルリと見渡した。


「……成る程?」


曖昧な微笑で小首を傾げたなまえを、隣に座っている石丸は窺う様に見下ろした。


「本当に聞いていたのか?」


全員の自己紹介は終わったぞ、と視線で訴えてくる石丸へ、なまえは誤魔化す様にもう一度全員を見渡した。


「なんというか……多いね。ちぢれたウニみたいな頭とかいるし」
「ちょっと待った!それどういう意味だべ!?」
「一応は聞いていたけど、うん。多分大丈夫かな?」
「優雅に目をそらすなっ!」


なまえは視界の隅でウニ頭がちらついた気がしたが華麗に無視し、顎に手を添えて、視線を落とした。


「……ただ……」


真剣な顔つきとなったなまえ。
石丸は隣で、「どうかしたのか?」と心配そうに見つめる。












「トガなんとか君について……忘れてしまったかな……」










その瞬間、傍観者の如く腕を組んでいた十神は不意打ちを食らい思わず目を丸くした。

そしてすぐさま、敵意むき出しの顔でなまえを睨む。


「おい……!」
「なんて冗談だよ、白夜!お久しぶり」


“白夜”と呼ばれ、十神は内心明らかに動揺した。しかし全力で押し殺す。
「やあ」なんて片手を上げ、ワザと眩しいオーラを醸し出してくるなまえへ青筋が浮かんだ。しかし全力で押し殺す。


「名前で呼ぶな……!」
「白夜!」
「っ!……貴様は昔からそうだ。いつも俺の―――」


その言葉に、朝比奈は「あれっ!?」と首を傾げた。


「もしかして!昔から知り合いなの?」


十神はピタリと動きを止める。


「余計な首を突っ込むな。貴様に関係無―――」
「そうだよ、朝比奈君。僕達は幼い頃から知っているのさ」
「!おいなまえ……!」
「えっ!?やっぱり!」


朝比奈へにっこりと笑っているなまえに、十神の剣幕がとんでもないことになる。
そして不機嫌丸出しのまま立ち上がった。


「あまり余計な事を喋るな!用が無いなら俺は行くぞ。」


十神はさっさと踵を反し、一直線に出て行った。


「(逃げた)」
「(逃げたべ)」
「(逃げたな)」
「(逃げた)」
「(逃げたか)」


数名……ほぼ全員が
察しているとも知らずに。






















------------
何やら昔から接点のある二人。
ここでなまえ君がわざと追いかけたりしたら
血管デストロイ。



……やだ、
そのパターンも書いてみたい(小声)

     

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ