散弾銃
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先程まで賑やかだった食堂も、すっかり空になってしまった。
なまえは椅子に深く腰掛け腕を組んだまま、軽く辺りを見渡した。
―――清潔感。
の、三文字に収まるとなまえは思った。
「(簡素で素朴……一応学校だし、こんなものか。案外快適かもしれない。)」
……あれさえ無ければ。
と、なまえは監視カメラを見上げた。そしておどけた様に軽く手を振った。ただしその目には一切の光が無く、むしろ禍々しい程のものだった。
なまえは鼻で軽くため息を吐いて、下唇を少し突出す。そして監視カメラから目を逸らす様に顔を伏せた。伏せた所で
「……ん?」
足元に光る、何かを発見した。
なまえはそれをじっと見つめたまま、机の下に屈み、潜った。
「(……メダル?)」
手に取ったそれはモノクマが描かれた銅メダルだった。
それには、傷も無ければくすみも無い。
「(……まだ新しい。作られたばかり、か?)」
なまえは親指で軽く弾くと人差し指と中指で挿む。そしてくるくると、全ての指上に滑らせ弄んだ。『超高校級の手品師』と言うだけあって、器用なのだ。
新品―――と、言うことは。
このコロシアイ生活とやらの為に作ったのか?
ふぅん……結構手が込んでいるんだ。
なまえは宙に弾いたそれを、
グッと捻り潰すほど強く掴んだ。
その目には力が籠っている。
つまり―――それだけ『こだわり』があるということか?
コロシアイへの、こだわりが。
「……ん……君……」
こだわり―――楽しんでいる、のか?
「なまえ君ッ!!!」
突然聞こえた大声に、なまえは大いにビクついた。
そして
「っ!?」
派手な音を立て、机に後頭部をぶつけた。
名を呼んだ犯人である石丸は、その頭が割れたのではないかと疑う程痛ましい音に、仰け反りながら驚いた。そしてすぐさま、片膝をついて覗き込む。
「だ、大丈夫か!?」
正直のた打ち回る程に痛かったが、グッとこらえる。代わりに後頭部を押さえながら、のそのそと机の下から這いあがった。その顔は激痛故に不機嫌そのもので、目尻には薄らと涙が滲んでいる。
「急にっ……呼ぶなっ……!」
「急にではない!僕はずっと呼んでいたぞ!なまえ君が頭だけを机に隠している時からずっとだ。」
その言葉に、なまえが一瞬固まった。
『頭隠して尻隠さず。』そんな言葉が一瞬で浮かんだのだ。
そして、それを行っていた人物が―――
なまえはそんな滑稽な姿をした自分が、ありありと脳に浮かんだ。
なまえは口許を引き攣らせる。
「み、みみみ、見てた……?」
「勿論だ。」
無駄にはっきりと断言する石丸に、なまえは引き攣ったまま、じんわりと赤くなっていった。
「?顔が赤いぞ?」
「!」
「ふむ。もしかして……恥ずかしくなったのか?」
なまえが「う、」と息を詰まらせる。
石丸はハッとすると、強く拳を握った。
「何も恥じる事は無いぞ、なまえ君!頭だけ隠すなんて日常茶飯事だ!!」
「それは違うよ!?」
「あんなに大きな音を奏で頭をぶつける事は大いに珍しいがな!」
なまえの胸を銃弾が貫いた。
途端にいよいよ、顔が赤くなっていく。何か口にしようにも口角が引き攣り、痙攣するように吊り上っていてた。
「しかしこれも恥じる事は無い!……そもそも何故恥ずかしがるのだ?」
「僕に似合わないだろ、そういうのっ」
―――なまえは大胆かつ平然と言ってのけた。
石丸は数度瞬きをして、なまえを見下ろした。
そして口を開きかけた時―――
「あー、あー!」
なまえは半分目蓋を閉じては石丸を睨むように見上げた。そして、その気怠く煩わしそうな表情で
「!?」
ぶっきら棒に、石丸の両頬を挿んだ。
突然両手で頬を挿まれ、石丸は目を丸くする。
「な、何をするのd―――いっ!?いひゃいではないk―――やっ止めたまへっ!!」
容赦なく頬を引っ張るなまえに、石丸は声を荒げた。
じわじわ力を込められるという不安と恐怖に、若干顔が蒼くなっている。
その表情をじっとりと見上げた後、なまえはようやく手を離す。
石丸は両頬を押さえたまま反動で数歩下がり、痛みを押さえる様に腰を折る。
片手を膝につき前傾に屈んだ状態で、なまえを見上げる。
「―――で?僕に何か用でもあったんだろ。」
丁度証明が逆光となっている。
――その、佇まい。
ス、と伸びた背筋、そえる様に軽く組まれた腕、絶妙な具合に伏せられた目―――完全に、上に立つ者のそれだった。
「……」
石丸は頬を押さえたまま、圧倒されたかのように唖然と見つめる。否、見上げる。
見開かれた目はなまえへ向けたまま動けない。
痛み故目尻に浮かんでいた筈の生理的な涙は……一瞬で乾いた。
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威圧された風紀委員。
怯んだ超高校級の風紀委員。
石丸ェ……