散弾銃

□02
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「(―――ちょろいな。)」



なまえは胸内で、鼻を鳴らした。

その瞳には、目の前でこちらを見上げている石丸が映っている。

目を丸く見開いて、赤い瞳で凝視して、頬を押さえ、硬直している。

おそらく思考回路は急ブレーキの後暫し停止している事だろう。






……なんとか誤魔化せたか。






なまえは涼しい顔でその様子を見下ろしているが……内心、心拍数が大変なことになっていた。


――ちょっと待ってもうご免だ勘弁だ。
何で毎度毎度コイツに痛がった様子を見られなきゃいけないんだおかしくないか?タイミングとか色々おかしくないか?


なまえはポーカーフェイスで前髪を流す。

その手つきや首筋からは想像できないだろう……背中に、冷や汗が伝っていたことは。


石丸……石丸清多夏……
もうこれ以上、動揺するような姿は見せたくないな、うん、見せたくない。
 絶 対 に だ 。


「――で、何の用だったんだ?」
「あ、ああ……」


漸く視線を外した石丸は、気を取り直す様に背筋を伸ばした。


「そう言えばなまえ君は、戻る部屋が無いと気付いてな。」


―――そう。
なまえは皆がゾロゾロ部屋へ戻る中一人食堂に居た所以は……自分の、戻る部屋を知らなかった事にある。

なまえは落ち付いた様子で腕を組み、椅子深くに腰掛けていたが……単に部屋に戻りたくても戻れなかっただけなのである!


なまえは澄ました顔で咳払いをした。


「そう言えば、そうだったかな。」


あたかも気付いていませんでした的な仕草のなまえ。石丸は続ける。


「昨日入学式の後探索した際に発見したのだが、実は寮の一つに、空き部屋があったのだ。そこには名前が書いてある筈のプレートも無くおまけに鍵まで掛かっていたため不思議に思ったのだが、なまえ君の部屋だったのだな。」


石丸は顎に手を当てて、納得したように頷いた。


「じゃあ、そこが僕の部屋って事?」
「憶測ではあるが、それ以外に部屋は無いしきっとそうだろう。今から案内するぞ!」


なまえはクルリと踵を反した石丸の背中を見ていた。そして一歩踏み出しかけて―――ピタリと止まった。


「……なあ、」


声を掛けられて、石丸はクルリと振り返る。


「その部屋の、さ、場所って―――」
「僕の部屋の隣だ」
「……」










こいつかああぁぁぁ……




なまえはグシャァァァァと膝から崩れ落ちる効果音が掛かりそうな仕草で、『よりによってこいつか……』と落胆した。

色々と面倒くさそうな事になりそうだと、安易に想像できたからだ。























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内心、若干波乱万丈気味かもしれないなまえさん。
素が垣間見えちゃっていますよ!

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