散弾銃

□03
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「あぁ、そうだっ」


食堂を出た瞬間ピタリと止まった石丸は、突然自分のポケットを漁った。なまえは危うくぶつかりそうになる。


「何?それ」
「これは電子生徒手帳だ。生徒全員に配られる」


……え。
貰ってないんだけど。


なまえは不貞腐れた顔で鼻を鳴らす。


「情報が変更される度に更新されるらしい。もしかすると地図も更新されているかもしれないぞ!」


何の事だかよく判らないまま、なまえは石丸の手首を掴んでそれを覗き込んだ。
手首を掴まれた石丸は、チラリとなまえを見た後もう少し見えやすい位置へ生徒手帳を移動する。
そして石丸は、慣れていないのかややぎこちなく操作しては、「ほら!」と言った。


「ここが僕等の現在地で、ここがそれぞれの個室だ。そしてここが例の―――これは、なまえ君ではないか?」


石丸が指差した所に、ドット絵がある。
それはどことなく―――なまえに似ていた。


「……ふぅん……」


なまえは口角が上がりかけた癖に、無関心そうに相槌を打つ。口角が上がりかけた癖に。


「つまり、ここがなまえ君の部屋という事だな。」
「って事は……これ、石丸?」
「ん?そうだぞ」


なまえはその絵を数秒間見つめた後、「ぷ、」と口元を押さえた。そしてニヤリと笑いながら、電子生徒手帳を見詰める。


「ドット絵の眉毛」
「なっ!これは生まれつきだぞ!」
「生まれつきじゃなかったら逆におかしいよ」


どうするんだよ増毛か?
と、なまえは動揺した様な微妙な表情で二度見した。





***





「僕の部屋、か。」


なまえは目を伏せて、スルスルと石丸の手首から手を離す。
その、這うように滑らかな手つきに、石丸はどういう訳か一瞬だけ動揺した。


「う、む。よし!早速見に行こうではないか!」


ずん、と一歩踏み出した石丸に、なまえは少し目を丸くする。
そして、苦笑した。


「……どこまでも頼もしい風紀委員だこと。」


この先は別行動だと思っていたなまえは、石丸の後ろ姿を見た。






正々堂々、という言葉がこれ程似つかわしい背中は他にあるだろうか。
背筋は垂直、肩は一直線。首は真っ直ぐに伸び、前を向いている。

正々堂々。
その言葉が見合う所以は、その姿勢のみではない。



―――後ろめたい事など、
何も背負っていないのだろう。



常に、世へ正しく正直に
きっと生きてきたのだろう。

そして、これからも一生背負わないのだろう。


なんとなく……そんな気がする。



なまえは“嫌な予感”しか当たらないが、どうしてもこれだけは、当たる気がした。
そこで不意に、石丸が振り返る。




「どうした?来ないのか?」



純粋な瞳で見つめ返す石丸に、なまえは軽く首を振った。



「ううん、今行くよ。」


短くため息を吐いて、面倒見のいい風紀委員の後に続いた。
―――少しだけ、微笑んで。






















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この間の移動距離:食堂から廊下

      

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